ある日突然、「地球を移動させる話を読みたいな」と思ったら、『地球移動作戦』を読めばいいと思う

 

地球移動作戦(上) (ハヤカワ文庫JA)

地球移動作戦(上) (ハヤカワ文庫JA)

 
地球移動作戦(下) (ハヤカワ文庫JA)

地球移動作戦(下) (ハヤカワ文庫JA)

 

書棚に『地球移動作戦』というタイトルの本があって、表紙を見てみると宇宙船らしきものが描かれている(上のは文庫版の表紙だろう)。

地球移動作戦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

まあ、こんな感じだ。

これはもう「地球を動かす作戦の話だな」としか思えない。

これで内容が「大佐は15年もの間、毎週金曜日になると、内戦の退役軍人への恩給支払いの手紙が届いていると信じて郵便局に確かめに行くが、一向に手紙は届かない。他に収入源はなく、恩給を除いた大佐の唯一の経済的希望は、死んだ息子の遺産となった軍鶏であった。大佐が何か月もの間手ずから育ててきた雄鶏で、大佐は1月になったら闘鶏でこの雄鶏を戦わせて、賭けられた金を稼ぐつもりでいた。大佐と妻の二人はその日に飲むコーヒーすら事欠くような状態で、残り少ない蓄えを、軍鶏の餌であるトウモロコシの購入に充てるか否かで口論になる」ような話でもないだろう(この話に興味がある人はガブリエル・ガルシア=マルケスの『大佐に手紙は来ない』を読むこと)。

もちろん、文学に裏切りはありきたりだ。だが、本書に裏切りはない。地球を、移動させる、作戦、の話である。べつに伊達や酔狂やうっかりで地球を動かそうということではない。なにせ作戦だ。地球になんかよくわからないけど、よくない天体が近づいてきている。このままでは地球が危ない。避けようという話だ。べつにこのくらい書いてもネタばれとは言えないだろう。なにせ、おおよそタイトルに書いてあるのだから。

で、本書はハードSFに分類されるのだろうか。文庫版の表紙を見るとなんか女の子が飛んでいるし、実際のところ魅力的な女性キャラクター(AICOMという人工知能も含む)も出てくる。間違いではない。でも、本筋は、地球を移動させることにある。ハードだ。

でも、どうやって? となると、この作品世界にはピアノ・ドライブというタキオンとかタージオンとかがなんとかする動力源がある。このピアノ・ドライブをおれは知っている。先に『プロジェクトぴあの』を読んだからだ。『プロジェクトぴあの』は『地球移動作戦』よりあとに書かれた。

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『プロジェクトぴあの』はピアノ・ドライブを発明した天才科学者の話だ。さらにそのあとの『プラスチックの恋人』の中では『プロジェクトぴあの』という作品は仮名手本忠臣蔵のようなものだと明かされてる(『プロジェクトぴあの』自体、作品内作者の作という体なのだ)。

まあ、いずれにせよ、まだどれも未読というのであれば、作者の中では結実していたと思われるピアノ・ドライブの物語、『プロジェクトぴあの』を最初に読むことを勧めたい。

それで、話はと言うと、しつこいようだが、地球を動かす話である。おれの脳裏には「本土決戦用特別攻撃最終質量兵器 地球」などというものがイメージされるのだが(ネタばれになるかもしれないので作品名は伏せます)、まあ壮大な話だ。SFを「壮大なフィクション」の略だと言ってもいいだろう。

むろん、ハードSFだからといって、登場人物がいるのだし、彼らには彼らの感情があって行動がある。人間と意識を持ったAIの関係、ニコニコ動画Youtubeの先にあるネットの人々、あるいは科学に懐疑的な人、狂信者、空飛ぶスパゲッティ・モンスターを支持する人、抗老化手術を受けている人(これはほとんどか)、色々出てくる。ジェンダーや人種についてもSFらしい意識が見られる。悪くない。

というわけで、ある日突然、「地球を移動させる話を読みたいな」と思ったら、『地球移動作戦』を読めばいいと思う。ほかにも地球を動かすSF作品はあるだろうが、なにせタイトルがタイトルである。読むにはもってこいの本だ。たぶん。

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……おれは今年山本弘作品を読み始めた。読み始めたきっかけは、次の記事だった。

www.hayakawabooks.com

脳梗塞の影響で、もうハードSFは書けないという。今年読み始めた人間に言う資格があるかわからないけれど、惜しい話だ。