新型コロナウイルスの時代、藤井新棋聖誕生す

今朝はまた身体が動かず、ベッドの上で昼ごろまで固まっていた。おれの抑うつ状態というのは、希死念慮でも暗い思念でもなく、ともかく頭と身体が断線して動けないというものだ。

それでも今日はどうしても行かねばならぬ仕事があって、這うように出社。二時頃。しばらくすると、だんだん頭と身体がつながってくる。少し余裕ができる。ふと、Yahoo!のトップを見てみると、棋聖戦が二局目と同型、みたいな見出しが目に入る。そうか、棋聖戦か。おれは公式中継サイトを開いて、Flashで動く棋譜を見た。

棋聖戦中継サイト

はじめに断っておくが、おれには棋力がない。で、おれが面白い攻防だなと思ったのは、63手目あたりからで、渡辺明が駒質になっていた銀を4六に引いてところ。またもやというか、藤井金が2五桂取りの攻撃に。さらに2六に進んで渡辺の飛車のラインに。これで渡辺が金を取ると。取ったばかりの桂を使った3四桂打ちで銀、飛車の両取り。これは面白くない。かといって「打ちたいところに打て」で渡辺側から3四に歩を打つと、結果として藤井の角筋が開けてしまう。そのどっちにも進まなかったんだけど、ここんところなあ。感想戦もちょっと見たんだけど、やっぱり渡辺元棋聖(こういう場合、元をつけたほうがいいのだろうか。その当時ということで渡辺棋聖でいいのだろうか)はこの時点で打開の別案も浮かばなかったようで、藤井有利に進んでいたか。

で、藤井新棋聖(こういう場合、以下略)、桂馬の頭の8八に歩を打つ。渡辺棋聖(当時)、これを放置して攻めに転じるも……(後で見た久保利明の解説では、8八歩に対応していれば渡辺玉がけっこう安定して戦いが長引いたのではないか、とのこと)。というあたりで帰宅。100円ローソンで買い物して、自転車。まだ雨は降っていなかった。

帰宅して、Kindle FireタブレットでAbemaで実況をつける。と、渡辺陣の左辺がと金と桂馬で制圧されていて、玉が上に逃げることもできないどころか、飛車を渡したら即死。さらに右辺にプレッシャー。こんな感じ。

kifulog.shogi.or.jp

残り時間がお互い少なくなっていたから展開が早いのは承知だが、なにが起きたのかとパソコンを立ち上げてFlash棋譜iPhoneじゃFlash見られねえ。つーか、そろそろ脱Flashをしたほうが……)を確認。渡辺三冠(当時)の攻めを桂馬を使ってうまく受けて、上の局面。そして、飛車取りがかかっているところで、逆に3八銀打ちで渡辺飛車を狙う。解説の久保利明いわく、これが最高のタイミングで、決定打だったという。これ以外のタイミングでは藤井玉も危ういと。

素人目に見ても渡辺玉は苛烈な挟撃にさらされている。逃げた飛車も狭い。先に一分将棋になった渡辺、最後の攻撃を繰り出し、一手で頓死というところまで指すも(中空を見つめて本局を振り返りつつ、という感じではあるが)、さすがに詰将棋の王様である藤井聡太、まさかそんなこともあるはずなく、終局。

史上最年少タイトル獲得となり、報道陣が詰めかける。勝者も敗者も記録係も立会人もみなマスクをしている。何十年か経って、藤井聡太先生(そのときどんな肩書になっているのか想像もつかない)の初タイトル獲得時の写真です、映像です、となったとき、その次代の人は「なんでこの人たちはみんなマスクをしているのだろう」と思うのだろうか。そんなことを考えた。

まあそれにしても強いよな、どこがって言われてもわからん。わからんけど、おそらくは相当に研究してきた上で同型を選んだ渡辺明をはねのけた。「勝率は高いけれどタイトルに届かないタイプ」という可能性も見事に打ち消した。打ち消すどころか、初タイトル戦でこの落ち着きはなんだろうか、という。なんというか、強すぎてかえって異名や二つ名がつかないレベルかもしれない。「東海の鬼」では足りないだろう。

でも、それも今のこと。現在進行中の「勝率は高いけれどタイトルになかなか手が届かなかった」おじさんとのタイトル戦もどうなるかわからない。順位戦にしたって、この先、鬼の棲家をすんなり抜けられるとも限らない。なにせ、すべての棋士はずば抜けた才覚の持ち主であって、最年少タイトル棋士どれほどのものかとプライドを賭けて戦ってくるはずだ。……はずだが、しかし、なんというか、こりゃちょっと手に負えないという感じもあって、豊島竜王・名人頼んだぞみたいな、いや、まだ早いか、そうでもないか。なんかこう、物語の主人公としては強すぎるんだよな。いずれにせよ、なんかすごいもの見たなって、そんなところだ。おしまい。

 

追記

藤井七段 最年少でタイトル獲得 17歳11か月 30年ぶり記録更新 | NHKニュース

会場にある関係者控え室では、師匠の杉本昌隆八段が勝負の行方を見守っていました。

最終盤、藤井七段の勝ちが確実となると、かばんから杉本八段の師匠で、藤井七段の大師匠にあたる故・板谷進九段の写真を取り出して、対局室内を映すモニター画面の前に起きました。

……こういう話には弱い。