ライトなライトな興味しかない人間が見ているW杯アジア最終予選のこと

おれはべつにサッカー好きというわけではない。メキシコ代表のサッカーだけはなぜか大好きだが、ほかはそれほど興味がない(なぜメキシコ代表の試合が自分にとってすごくおもしろいのか理由はまったくわからない)。あとは「地上波で日本代表が試合していれば見るよ」というくらいのものだ。にわかといえば「なったばかり」という意味であって、こんな感じでずっとサッカーに接してきた自分はなんだろうか。ミーハーかものすごく薄くて軽いファンか、ファンとも呼べない存在か、よくわからない。

そんなおれのような人間が見ている、ひさびさに本当の「絶対に負けられない戦い」についてメモする。

と、おれがサッカーにあまり興味がないと書いたのはたしかだが、「サッカーについて書かれたもの」を読むのは嫌いじゃない。これも変な話だ。しかし、たぶん評論とかそういう面において、野球よりサッカーのほうがより豊穣な文化があるのではないか。そんなふうに思っている。

というわけで、五輪だの、ワールドカップの予選だのとなると、ネットでサッカーの専門サイトやコアなファンのブログなど読んだりする。サッカーの試合を見ることより、サッカーについて書かれたものを読むほうが好きかもしれない。

で、今の日本代表について。どうも、専門筋からも「森保監督じゃだめだ」みたいな雰囲気が伝わってくる。評論家はちょっとオブラートに包んで、個人ブログや掲示板なんかは痛烈に。

そして、トルシエも痛烈だった。

「日本には強烈なショックが必要だ」トルシエが語るサウジ戦…日本代表に欠けていた「野心」と「マネジメント」を埋める術とは? - サッカー日本代表 - Number Web - ナンバー

私の最大の失望は日本がまったくコレクティブでなかったことだ。本当に何もなかった。プランも戦略も感じられなかった。

組織的でなく、プランも戦略もないと言う。このあたり、森保監督批判によく見られる言説と一致しているように思う。

さらにトルシエは追い打ちをかける。

足りないのはパッションであり野心や決意だ。プレーの強度もなかった。選手は自分たちの経験に依拠しようとしたが……、足りなかったのはフラム(フランス語で情熱、炎などの意)だ。選手たちが本当に勝ちたがっていたか、勝てると信じていたかどうかわからないが、魂はなかった。

戦術もなければ、選手に魂もないとなると、なにが残っているのか。サッカーの……個人技? それだけでいえば、日本はアジアでトップクラスだろう。だが、最終予選となるとそれでは厳しいというところだろうか。ようしらんが。

で、昨日行われたのが、かなり苦しい状況で迎えたホームのオーストラリア戦。ホームなので地上波放送がある。放映権料の高騰だとかなんだかで、アウェイ戦はDAZNの独占配信になってしまった。

おれは「今シーズンのプロ野球、というかカープはもういいか」と、九月いっぱいでDAZNを解約した。なので、サウジアラビア戦なども見られなかったわけだが、まあまだ契約中だった中国戦も見なかったし、やはり「地上波で日本代表が試合をしていたら見る」くらいの人間なので、地上波でやらんことには、なのだ。いや、解約のとき、ほんのちょっぴり、日本代表のアウェイ戦のことは頭をよぎったけれど。

そんで、これはもう余計なお世話かもしれないけれど、なんだかんだいって地上波という入り口がなくなるって、日本サッカー界にとってけっこうでかくねえか? まあ、入り口といっても、おれのようにそこだけで終わる人間もいるが、そうじゃないやつもいるだろう。かつてブームだったF1も格闘技も、地上波が引いていったと同時に、世間的な関心も引いていってしまったように思う。むろん、好きなやつは好きだし、金を払って見続けている。そういうものだ。おれだってカープ戦を見るためにJ-SPORTSオンデマンドとDAZNの両方に金を払う(DAZNはセ・パ十一球団のホームゲームを配信する。あれ、残りの一球団は? カープでした。ネット配信の世界でも取り残されちまうぞ、アホが)。

そんでも、やっぱり地上波みたいな入り口は必要なんだよ。だって、サッカー知らないやつがいきなり金を払って有料チャンネル見るか? 野球知らないやつ、ロードレース知らないやつ、バスケットボール知らないやつ……、なんでもいいが、いきなり知らないものに金は払わない。とはいえ、ダイジェストや宣伝だけで呼び込めるだろうか。やっぱりなんか、偶然目にしちゃう機会ってもんが……って、もう若人はテレビ自体を見ないと言われればそれまでだが。でも、たとえば「ウマ娘」で競馬に興味を持った人がいたとして、いきなりグリーンチャンネルに加入しろというのはハードルが高い、よな。

で、卵が先か鶏が先かじゃないけれど、日本代表戦の視聴率が下がってしまって、民放が大枚はたいてでも放送しようとする価値を見いだせなくなっているともいう。そのあたりは、どうなんだろうか。いずれにせよ、国民的行事とも言えるほどの日本代表熱(テレビの視聴率的に)は、もうなくなってしまったのだろうか。サッカーに限らず、全般的に、そういう時代なのか。スポーツ観戦自体、時間がかかってみんな忌避するのか。

よくわからない。ひょっとしたら、サッカー日本代表の魅力が薄れているのだろうか。おれ自身、ライトなライトな興味しかない人間にも、今の日本代表はそんなに魅力的に映らない。その理由はわからない。説明できるだけのサッカー知識とサッカー熱がない。おそらく個々人の能力も昔に比べたらアップしているのだろうし、久保建英みたいな次世代のスター(今は負傷離脱中だけど)もいるのに、なんでだろうか。「ワールドカップに出るのが当たり前になってしまった」からなのか? それもあるかもしれない。ひょっとして、大会本戦になったらみんなどこからか出てくるのか。

で、話はようやく日本対オーストラリア戦に戻る。現状、「当たり前のようにワールドカップに出られる」状況ではない。やばい。馬鹿にされがちなキャッチコピー「絶対に負けられない戦い」が、馬鹿にできない状況になっている。

そんななかで、おれがネットで見かけた意見。「いっそのことオーストラリアに日本代表が負けて森保監督が解任されるのがいい。ついでに田嶋会長も辞任したほうがいい」というもの。これが、多数派とまでは言えないが(おれの観測範囲に偏りもあるだろうし)、稀に見る意見、というほどに少なくもない。さらに過激になると、「ワールドカップ出場を逃して、ゼロからサッカー協会を立て直したほうがよい」となる。

うーん、どうなのかね。どうも、森保監督を支持する声は大きくない。でも、オーストラリア戦を落としたら、その時点でワールドカップ出場自体がかなり危なくなる。ゼロから論に直結するのではないか。

この、ゼロから論。暗黒時代のカープにもよく見られた。「いっそのこと最下位になってしまったほうがいい。監督も交代して、オーナーも退くべきだ」。けど、不思議と暗黒のカープよりさらに弱い球団がいたりして、なんというかもやもやしていたっけな。まあ、最下位になったこともあったけど。

で、なんというか、おれはその論についてどうにも半信半疑だった。底をつけば暗黒が解体されて生まれ変わり、上昇気流に乗れると決まっているのか? と。そのままどん底のままの悪循環に陥らないとも限らない。やはり、やっている以上は勝利を目指すべきだし、ファンとして底つきを願うのも、なんか違うような気がして。どん底まで落ちて破壊されつくして、そこから不死鳥のように蘇った例なんてあるのあろうか。え、戦後の日本? 

なんか話がまた逸れた。ともかく、「日本代表に勝ってほしいが、森保監督続投はいやだ……」みたいなジレンマを持ったファンだかサポーターだかもいるなか、試合は行われたのだ。

結果、どうなったのか。

【W杯アジア最終予選】豪州に薄氷勝利で「首の皮一枚」がトレンドワード | 東スポの日本代表に関するニュースを掲載

 まさに「首の皮一枚」――。12日のW杯アジア最終予選(埼玉)で日本はオーストラリアに2―1で辛勝。2勝2敗の勝ち点6とし、本大会出場への権利が自動的に得られる2位以内に望みをつなげたものの、決勝点はFW浅野拓磨ボーフム)のシュートがポストに当たり、はね返ったボールが相手DFに当たるラッキーなオウンゴールで、薄氷の勝利だった。

 これを受けてサッカー関連が次々にツイッターのトレンドワード入りしたが、「首の皮一枚」もランクイン。試合後のテレビインタビューでは、主将のDF吉田麻也(サンドプリア)も「何とか首の皮一枚つながっている状況」と話し、厳しい状況に変わりないことを強調した。

いや、「首の皮一枚」って、もう斬首終わってるからね、死んでるからね、山田浅右衛門に首の皮一枚残して斬られたやつが、また頭と胴体つなげなおして元気になったって話はないだろ……って昔から思っているのだけれど、それはまあいいか。

ともかく、なぜか試合前から涙を見せていた森保監督の首もつながった。試合後の会見で「君が代」を持ち出したこともあって、右寄りの人たちの評判も高まった。

一方で、「勝ってしまった」と思っている人もいるわけだ。「今回は勝ったけれど、これではもし本戦に出ても世界と戦えない、やはり監督交代だ」という意見もある。でも、勝っちゃったら、さらに交代しにくい。熱心に日本サッカーを応援している人ほど、「うーん」となっちゃっているかもしれない。

で、おれのようなライトな薄っぺらはどう思っていたか。正直、どっちに転んでもおもしろいかな、と思っていました。最低ですね。

もし日本が勝てば、「絶対に負けられない」戦いがまだまだ見られる。それは悪くない。やはり緊張感のある真剣勝負はおもしろい。

一方で、監督解任となったら、次の監督は誰がいい? の議論になって、決まったら決まったで賛否両論あったりして、それでまた代表のメンバーも変わるだろうし、そういう騒動を見るのもおもしろい。

あらためて言うけど、最低ですね。

それでも、やっぱり試合を見る以上はどっちかを応援したほうが面白いわけで、おれはやはり日本代表を応援していたと思う。そして、ギリギリなんとか勝ったことに拍手をおくりたい。でも、トルシエの言うコレクティブ、戦略、そういったものがあったのかどうか。おれにはサッカーの試合を見る目がないからわからない。戦評待ちだ。ただ、なんか魂はあったように思う。フラムだ。たぶん、あった。

覚悟のレベルが違った田中碧「この試合が終わって引退してもいいやって思えるくらい…」 | ゲキサカ

「正直、僕の人生の中でもたぶんこれ以上に緊張することはないだろうなというくらいに責任があった。日本サッカーの進退がかかった試合ではあるので、この試合が終わって引退してもいいやって思えるくらい後悔のない試合にしようと思っていた」

「日本サッカーの進退」だ。監督、会長の進退などではない。「日本サッカー」。これはでかい。べつにおれは日本サッカーを支えてきたサポーターでもなんでもないけれど、Jリーグの創設をテレビで見た記憶があるにはある。そこから遠くに来て、ここに存亡の一戦があった。しびれるな。

でもって、しびれる試合が続くのだ。なんなら、三位でプレーオフに回るというのも劇的かもしれない。もし、プレーオフDAZN独占だったら、金払ってもいいかなくらいには思っている。

おしまい。

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