ブラッド・ピットの『ブレット・トレイン』はそれほど「変」ではないけど、楽しめる映画でしたよ!

夜の東京を走る新幹線

 

ブラッド・ピット主演で伊坂幸太郎原作の変な日本を舞台にした映画が作られる、という一報のときにはけっこう話題になっていたような気がする。が、公開となって、たとえば『トップガン・マーヴェリック』のような熱気(自分が行った映画館では、まだIMAX上映してました)も伝わらず、「ひょっとしてあまりうまくいっていないのでは?」とも思ったりした。

 

が、実際に映画館に足を運んでみればほぼ満席だし、悪くねえ映画じゃないかという気はした。おれはべつに映画に崇高な理念とか、社会的正義の気付きとか求めてねえし、こんなんでいいんだよって思った。

 

ラーメンと寿司を出す店があってもいい。そんな感じだ。ちなみに、寿司は職人が目の前で握っているし、でかい魚を捌いたりしていた。麺は太麺で、煮干しのスープがくどくなくていい。外国人のお客さんに寿司職人が「辛いのを載せる大丈夫か」と必死にコミュニケーションをとっているのが好感を持てた。いや、ちょっと唐辛子ふりかかるだけのことなのに。

 

まあ、ラーメンと寿司はどうでもいい。『ブレット・トレイン』だ。しかし、このタイトル、どうにかならんかね。今、これを書いているときも「バレットだったかな? ビュレットだったかな? つーかタイトルわかんねー」ってなった。『ブラッド・ピットの暗殺新幹線大暴走』とかでいいんじゃねえのか? いや、よくない? まあ、そんなところはある。

 

それでまあ、なんだ、日本原作、舞台は日本で、ほとんど外国人という設定はどうなの? ホワイト・ウォッシュなの? とかいう話にはまったく興味はない。おれの意識が低いとなじられれば、甘んじて受け入れよう。だって、変な設定だからこそ、変な面白いものが生まれる素材にならんか。真面目に、日本人の役者を使い、正確な日本を描いて、それで面白い作品、傑作が生まれる可能性だってもちろんある。あるけれど、「変」なものが生まれる可能性は低い。おれは変なものも好きだ。変なものが生まれる化学反応が起こる要素を好む。政治的な正しさで、変を排除しないでほしい。

 

とはいえ、本作が「変」の化学反応で大爆発しているかというと、それほどでもないというのが正直なところだ。そりゃあ、日本で一切撮影されていない、日本を舞台にした映画。新幹線ではない変な新幹線。変なヤクザに変な富士山。……でもね、なんかね、ちょっと大爆発にはなってないのよ。新幹線大爆発してない。「やろうと思えば正確な日本も、新幹線も描けますよ」という余裕のあるところから、あえて変なところを入れてみましたが、そんなに変にはしていないです、無知でもないし、馬鹿にしていないのもわかってください、みたいなところがある。それはそれでいいことなのだろうし、それによって保たれているラインもあるが、「ハリウッドの描いた変な日本ー!」という楽しさは、まあそれなりだ。

 

しかし、一つの列車にいろいろなバックボーンを持った殺し屋たちが乗り合わせて……という、それ自体はまあなんだ、面白そうなシチュエーションは活きているし、殺し屋たちのキャラも立っていた。とくにレモンとタンジェリンはよかった。双子のように似ている、というのは原作からの設定らしいが、それを逆手にとった展開などもおもしろい。

 

いろいろな因縁が、なんというか、梅の木のたとえような? そんなふうにいろいろ絡み合っていました、みたいなのは、伊坂幸太郎風なんだろうか。あ、おれ、伊坂幸太郎の小説読んだことありません。あと、たぶん、伊坂幸太郎原作の映画も観たことないかな。あったかな。だから、そのあたりはよくわからない。ただ、そういうあたりは伊坂幸太郎風なのかもしれないし、そのたりを丁寧にカットバックというのかな、ともかく説明的すぎるくらいに説明してくれるのは、よくもあり、悪くもあり。

 

よくもあり、悪くもあり。でも、総合的に見たら、なんか映画館に映画見に行くという行動において、この作品を選んでも間違いじゃないぜって思ったのである。いいじゃん、楽しめるじゃん。そりゃあね、クエンティン・タランティーノ作品のようにマニアックに長く語られるようなもんじゃないかもしれないけれど、ブラッド・ピットだし、アクションシーンもぎゃーってなるし(隣の席の知らない女性がバイオレンスシーン苦手らしく、いちいちぎゃってなってた。R-15)。

 

まあね、とにかくね、真田広之とか出てるし刀のアクションも下手なことにはなっていないのだろうし、パンフレットに各キャラがバーンとデザインされて載ってて、そんな感じで、まあいいじゃねえかと。若干、プリンス役の人の顔が濃すぎる感じがしたけれど、まあいいじゃないか。あ、これってなんかルッキズム? まあいいや。

 

というわけで、なんかそんなに話題になってるふうでもないけれど、映画館で見て、おれは損しなかったと思うぜ。そもそもおれは新幹線好きだしな。まあ、新幹線じゃないけど。新幹線じゃないからあれなんだけれど、アナウンスだけは本物使ってほしかったなとか思うけれど、まあいいや。以上。