『ゴジラ -1.0』はマイナスのない映画だったんだが

 

公開一ヶ月経って、ようやく『ゴジラ-1.0』を観た。

 

そもそも、その存在が明らかになったとき、「これは観てみたいな」と思える設定だった。それはなにか。「終戦直後にゴジラが来て、どうやって戦うの?」だ。それに尽きる。そこがほとんどじゃないかとすら思った。なぜかわからないが、「米軍が戦うのでは」という発想はまったくなかった。なかったので、まじ、どうすんの? と、気になってしょうがなかった。

 

が、どうもなんというか、山崎貴監督ということで、これもその存在が明らかになったときに、ネットもざわついていたように思う。あれやこれやの映画の低評価は知っている。ただ、おれは観ていない。観ていないのでなんとも言えないが、低評価な映画を撮る監督、というイメージは抱いてしまっている。ただ、よく見ると「あの作品はよかった」みたいな話もある。あるが、どうなのか。

 

……とか考えているうちに、公開から時間が経ってしまった。「やっぱり、映画館で観るか」と決断したのは、アメリカで評判がいいという話をネットで観たからだ。いや、それ以前にもいい評判を目にすることもあった。でも、なんだろうか、「全米が泣いた」なら行くというのか。おれはアメリカ大好きっ子なのか。よくわからない。もちろん悪い評判、悪い部分の話も目にすることもあった。結局、そのあたりどうなのか。

 

いや、やっぱり、「終戦直後にどうやってゴジラと戦うの?」という疑問を目にしたい、というのが強い動機になるかな。

 

映画館はブルク13。『ゴジラ-1.0』の上映はIMAXで夜に一回、小さいシアターで二回まで縮小されていた。昼の回に行ってみたら、これがなんかもう満席に近く、「あれ、映画館は判断間違った?」とか思ったが、ほかの映画の入りはわからないのでなんともいえない。

 

で、本編の感想に入る。もうネタバレ全開でいいだろう。

 

なるほど、舞台はたしかに終戦直後日本だ。そして、ソ連との関係から米軍が動かないという。いや、じっさい、占領下日本がさらにひどいことになったら、対ソ的にもよくないのでは? 米軍にも被害が出るのでは? などとも思ったが(観る前は米軍のこととか考えていなかったくせに)、そのあたりはあっさり説明で片付けている。このあたりで下手な政治劇とかやらないあたり、判断はよかったと思う。今回のゴジラは、そういうんじゃないのだ、ということだ。

 

でもって、占領下日本で米軍が動かないとなると、民間がやるということになる。なんかいろいろだれがどう動いて、これだけ組織したのか、米軍と協議したのかとか気にならないでもないが、そのあたりもばっさり無視している。このあたりも判断がよかったと思う。今回のゴジラは、そういうんじゃないのだ、ということだ。

 

そうして残ったのは、ゴジラと人間ドラマ、ということになる。「人間ドラマの部分がどうも」みたいな意見もあった。そのあたりが長々とお涙頂戴的に続くようならちょっと興ざめだろうな、と思っていた。

 

が、それも悪くなかった。いや、人間ドラマがよかった、というのではない。べつによくも悪くもない。普通だ。なにが悪くなかったかといえば、なんかテンポよく切っているのだ。だらだらしていない。サクッと場面がかわる。そういう印象。

 

大きな区切りで見ても、最初のゴジラ、復員、銀座のゴジラ、対策、最終決戦……って雑すぎるか? でも、なんか構成がよかった。テンポが悪くない。中だるみは感じなかった。人間ドラマがプラスではなくとも、マイナスにはならなかった。そういう印象。

 

で、ゴジラはというと、これはもうプラスでしょう。最初のゴジラのサイズ感と人殺しっぷり。そして、大きくなっても人殺しにくる強い感じ。なおかつ、見得を切るのがかっこいい。ガシャーン、ドカーンとやって、尻尾でバーンとやって、正面向いて叫ぶ。人殺しの顔をしている。これはもう、かっこいいゴジラだ。そう言い切っていい。

 

そのゴジラが、高雄を水中から撃ち抜くシーンとかね、かっこいいね。いいシーンだ。お、この監督、見せ方わかってるじゃないか、みたいに謎の上から目線になったりした。銀座のシーンの暴れっぷり、最後の熱線ドーン。いいよなあ。

 

そんでもって、やっぱり震電よな。というか、おれは最初に設定を知ったとき、「橘花か秋水なんかが出てくるんじゃないのか」と思ったが、震電だった。妥当だろう。秋水では滞空時間が短すぎる。烈風では見た目のインパクトもないし、富嶽となったらこれをこのストーリーで活かすには難しい。震電は見た目にもSF的だし、いい選択だ。そして、飛んでいる震電をいいクオリティで見るのはおれも楽しい。

 

で、震電で主人公は特攻するつもりであった。口の中に爆弾ごと突っ込む。でも、整備兵はそれをさせないだろうな、というのは見え見えだった。爆弾を乗せたふりをするのかな? でも、直前にそれを知らせたところで、突っ込むときは突っ込むよな、と。そこでわざとらしく出てきたのが、爆弾の安全解除だとかいう赤いレバーだ。「これか」と思った。主人公がいざ突っ込むとき、レバーを引く。ドイツ製の脱出装置が作動する。主人公は飛んでいって助かる。震電だけがゴジラの口の中に突っ込んで爆発、そういう筋書きかと。

 

でも、違った。べつに脱出レバーがあって、主人公はそれを説明されていた。これはあとから明らかになる。無音でなにか話しかけるシーンがあっただけだ。

 

最初、おれはおれ案のほうがいいんじゃないかと思った。テンポがいい。が、いま、これを書いていて思うに、自分の意思に反して脱出して生き残るのでは、主人公の戦争が終わらんのだ。自分で「生きねば」と思わなければ、話が決着しない。あえて、脱出の道を選んだところが重要なのだ。そういうことなのだろう。

 

というか、わりとまあ、なんか、びっくりというとか、そういう要素は少ないというか、ないよな。『シン・ゴジラ』での蒲田くんみたいなそういう、なんかフックみたいなのはない感じはする。けれん味がない、といってもいい。おれは怪獣映画がとくに好きだというわけでもないし、正直、子供時代に見た昔の「ゴジラ」や「大魔神」の次は『シン・ゴジラ』みたいな人間なので、ジャンル映画としてなにがいいのかわからんが。

 

わからんが、でも、この『ゴジラ-1.0』のゴジラはかっこよかったし、船も飛行機もよかった。べつに人間ドラマが足をひっぱるほどでもない。捨てるところは完全に捨てて、テンポはいいし、飽きることもない。わりと見え見えのところもあって、たぶん生きているだろうなという人は生きているが、それはまあそんなものだろう。そしてなにより、「終戦直後にどうやってゴジラと戦うの?」を、なんか無理やりなところもありつつ、それを気にさせない感じでやってのけてくれたし、戦いの部分もきっちり作られていた。おれは海外の、たとえばマーベルの映画とか見ていないので、VFXがちゃちいとかわからんし、十分なクオリティに感じた。

 

あ、マイナスねえじゃん、という感想ということになる。満足の映画だ。映画館で観てよかった。

 

と、百点満点みたいな評価をしたうえで言うのだけれど、ちょっとけれん味がなさすぎる、というケチをつけたい。いい映画なんだよ。ゴジラも震電も。それは言い切れる。そんでも、なんかこの、狂気みたいなのはなかったな。「なくていいんだよ」と言われればそれまでだが、おれは映画にどこかなんかやりすぎだろ、わけわかんないだろ、みたいなところを求めているところがあって、これはもう趣味の問題なので、仕方がない。「これは-100点の映画だけど、一つだけいいシーンがあったから+100000点」という評価をするほど極端ではないけれど、変なところ、狂ったところがちょっとあってほしい。なんかだから、タイトルのわりにマイナスのない映画なんだけど、あくまで、あくまでおれの趣味の中では、すごいプラスになる部分はなかった。続編があればよろこんで観に行くだろうが、なんか「人生マイベスト映画」のランキングには入らない感じ。そういう意味では評価が難しいともいえる。いや、決してつまらないというわけじゃないんだ。おもしろんだ。でも、なんか、なにかがないような気がして。おれがよくばりすぎているだけかもしれないけど、そういう感じ。

 

 

 

……まあ、おれのなかで震電といえば宮藤芳佳なんだが。

 

 

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↑打ち上げられた深海魚。

 

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……なんか、『シン・ゴジラ』に二回行ってるのな。じゃあ『シン・ゴジラ』はおれのなかでマイベストに入るような映画だったのだろうか。おれは記憶がないほうなので、なんとも言えない。