……と、ここで違和感を抱いた人は全集中の呼吸の常中ができている人である。おれは常中どころか集中力が散漫な人間なので気づかなかった。
気づかなかったので、三度QRコードでエラーを出したのち、係員の人に「エラーが出るんですけど」と聞いてしまった。係員さんと一緒に四度目のエラーを見届けた末に、友人カウンターに行くことになった。行って、上役的な人から「トップに戻っていただいていいですか？」と言われる。トップに戻る。予約情報を見る。すると、そこに表示されていたのは「T・ジョイ横浜」の文字であった。
「あー、こちらではありませんね」
「えーと、T・ジョイ横浜ってどこですかね？」
「横浜駅に新しくできた……」
あ、あああ。それができたのは知っている……。
初めて映画のオンライン予約に失敗した。残り20分。すごくすごく急げば、間に合うかもしれない。しかしおれはT・ジョイ横浜に行ったことがない。おれは横浜駅をよく知らない。
どうする？
せっかく早起きして（おれにしては）電車賃使ってきたので、ここブルク13で11時05分回を見ることにした。ブルク13、初めての有人チケット売り場。ほとんど埋まっているなか、よさげな角の席が空いていたので、「ここを」というと、「そこは車椅子専用のお席となっております」、とのことで、その後ろの席を買った。ほとんど満席だった。
おれは2回見るわけではないのに、『鬼滅の刃』の動員に1人分足したことになる。大河の二滴。
以下、ネタバレがあるかもしれませんので。
……で、おれは座席に向かった。キッズたちが多いかというと、そうでもない印象だった。おれの左の席は売れていたのに空席だったので、そいつは間違ってT・ジョイに行ってしまったやつかもしれない。その他、空席を除けばほぼ満席。
いつもより予告が長いと感じたのは気のせいだったか……。アニメ最終話あたりをなぞるように『無限列車編』スタート。
という前に、おれと『鬼滅の刃』、『鬼滅の刃』とおれについて語っておく。おれは原作漫画を全く知らなかった。アニメは第2話あたりで切った。その後、人気が沸騰しているのを知って、Amazon Primeで見た。夢中になった。アニメの切りどきは難しい。そして、映画版がありゃ行かなきゃな、というわけで来たわけだ、間違った映画館に。
という具合に、やや薄めなファンなので、「これこれ、この感じだ！」と涙するほどではなかった。が、すぐに作品にのめり込めた。やはりいい作品だ。
いい作品。たぶん、『鬼滅の刃』は「だれもが見たことがない新しい境地を切り開いた」というものではないだろう。「名付けがたい新しい料理」ではなく、「すごくうまいラーメン」だ。もちろん、おれはそれをけなす意図はない。すごくうまいラーメンのなにが悪い。べつにラーメンでなくて、フレンチのコースでもなんでもいいが、なにかしら王道を行き、その上でなにかいい要素が加わって、ジャンプ漫画のなかにあってヒットしたと言えるのだろう。おれはそう思う。
っつーわけで、中性的な魔導列車（違うな）の鬼の、夢攻撃。これもべつに目新しいという印象はない。印象はないけれど、炭治郎の「それはインセプションではやらない」方法での脱出方法などはたいへん素晴らしかった。あとは伊之助の活躍だろうか。今回は善逸の出番は少なかった。
でも、何より存在感があったのは、言うまでもなく柱の煉獄杏寿郎だろう。煉獄さん、この映画の主役である。映画一本で煉獄さんの人生を描いてみせた。見事なものだ。「このあたりで映画一本にしよう」という判断がどこかであったと思うが、大正解だろう。それだけ強く印象を残してくれた。大成功といっていい。むろん、おれは原作漫画を読んでいない。読んでいる人には中途半端にうつったりするかもしれないが、おれはそれを知らない。竈門炭治郎たちの活躍を削ぐわけでもなく、それでいてはるか上のレベルというものを示し、生き様を示した。かっこいい。おれは涙した。
そんで、入場者特典で初めて吾峠呼世晴さんの煉獄杏寿郎短編の漫画を読んだのだが、これもよかった。おれのなかでいくらか「アニメで大化けした作品」という先入観があったが、漫画もすばらしいに違いない。
となると、おれは漫画に手を出すべきなのか？ 迷うところだ。迷いつつも、「おれはアニメで追う」というところを今はとる。次がアニメ2期になるのか、さらに劇場版になるのかは知らん。知らんが、それを追うことにする。満員の劇場、それをみるキッズたち、続編がないわけなかろう。
と、キッズたち。キッズたちには少し長かったらしい。列車のかたがついたあたりで、トイレに行くキッズたちが多かった。あまり他の映画では見られない光景だった。おれも実は入場前のゴタゴタでトイレに行けず、非常に我慢の呼吸をしていたことは内緒だけれど。
……ちょっと欲しいよな。
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