スシマスター2049は出なかった……よね? 『ブレードランナー2049』を観るのこと

 「なあに?」ウォルトン夫人は息子の方に身を乗り出してたずねた。

「もうひとりのほうだ」チャールズは息を殺してささやいた。「ここにいるのはもうひとりのほうだよ」

『父さんに似たもの』フィリップ・K・ディック大森望

おれとP.K.ディック。おれは常々ディックとの出会いは『ザップ・ガン』であり、よく『ザップ・ガン』からディック、そしてSF好きの端くれになったなと書くのだが、よく考えてみれば映画『ブレードランナー』がディック、そしてSFへの入口だった。小学生、それも低学年のころだろうか、繰り返し『ブレードランナー』のビデオを見た記憶がある。ストーリーはさっぱりだが、その映像にたまらなく惹かれたのだ。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』に触れるのはずっとずっと先のことである。

その『ブレードランナー』の続編、なのである。ええ、今さら? という思いや、なんだこの上映時間の長さは? という思い、さらには前作が革新的な世界を描いたが、その後のハリウッド超大作でサイバーパンク的(厳密にサイバーパンクと言えるかどうかはべつとしての「的」。というか「ブレードランナー的」が正しいのか?)な未来世界とかCGとか見飽きてるところもあるしなあ、などと思ったりもした。

けど、前作と本作をつなぐ三本の短編なんか観ると、ちょっと期待しちゃったりするし、主人公がライアン・ゴズリングだぜ。

主人公の圧倒的存在感〜映画『ドライヴ』〜 - 関内関外日記(跡地)

なにより、主人公の「ドライヴァー」を演じたライアン・ゴズリングに圧倒された。これはもう、例えば『ノーカントリー』のハビエル・バルデムくらいの存在感であって、狂気であって、不気味さであって、なんともたまらんのである。

とか書いてんだぜ。でもって、なんかちょっと情けない風の感じが、ちょっとしみったれた感じのディック作品の主人公にぴったり、という気がしたのだ。まあ、映画館で観よう、という思ったのだ。

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というわけで観たのだが、上の証拠写真(あ、今気づいたけどなんだ「日本シリーズ進出ありがとう!」て)にミンティア(カフェイン・カプセル配合)が写っているのは偶然ではない。ヨコハマトリエンナーレの黄金町界隈を13,000歩歩いたあと、見に行ったのである。
歩くのはつかれるし、芸術作品に向き合う(というほど真剣でもないが)というのも疲れる。そこへきて、ふかふかの座席に、厚くもなく寒くもない室温、そして暗闇に包まれる。これって、寝るパターン。というか、おれは何回も映画館で寝てしまってくっそ損して、やり場のない怒りを感じた(いや、自分に怒れよ)ことが多い。今回は朝早起きしたし、そのパターンや、思うて、このミンティアとクロレッツの黒いガムを用意したのである。

が、しかし、席に座ってCMだの予告編だのが始まったあたりでもうやばい。危険ドラッグ……じゃなかった、ミンティアの白い錠剤に手を出す始末。

……というわけで……その……前半の方の記憶が曖昧で。あ、でも、作品中でも完全に覚えているのは記憶じゃなくて記録だ、みたいな台詞あったし。そんでもって、ガンガン錠剤とガム放り込んだら、中盤くらいからはなんとか耐えた。この「なんとか耐えた」はかなり苦しいところがあって、8歳くらいまでの記憶がまったくない、みたいな、というか。でも、筋は追えたし、Kが

以下ネタバレ

自分を自分が人間である可能性があるのではないかと疑うレプリカントだと疑っている人間ではないか(書いててわけわかんねえや)と思うところなど、原作……ではないか、原案のディック世界らしいなあなどと思ったり。ラストシーン一つ前の、身重く横たわる(はい、ディックの「ウーブ身重く横たわる」って言いたかっただけの表現ですよ。正確には安堵しながらというかなんというか)ライアン・ゴズリングとかいいシーンでした。なんつーのか、その前に、どうすべきか悩んでるようなところで、good Joeだって巨大筒香みたいなサイズの巨大エロホログラム広告に言われて、ああいう決断をしたってのが、なんかいいじゃないですか。

というわけで、やっぱりちょっと長えよ、上映中に席を立つ人も、スタッフロールとともに席を立つ人も、箱の大きさからすると多いなぁって感じで、いや、自分も睡眠と同じくそのあたりは心配してたんですけどね。そんで、家に帰ったあと、なんかネットっつーか2ちゃんつーか5ちゃん読んだら、「本来は4時間で前後編にする予定だった」みたいな、真偽はわからんですが、そんなことも書いてあって、それでもよかったんじゃねえかとはちょっと思ったりはしましたです、はい。でもまあ、ハリウッドSFの要求するところのクオリティは満たしてるし、とりあえず観てみたら、というところかなあ。おれのSF知識、映画知識では、手堅く正統的な続編だな、という感じでした。マニアックにのめり込んで、もう一度劇場で! というところはないかな。でも、円盤が出たり配信が始まったらぜったいに観るわ。そりゃもう、なんか寝ぼけ頭のなかで別のストーリーが始まりかけてたりしたもんで、ええ。