セリーヌ『ノルマンス またの日の夢物語II』を読む

……患者一人たりとも、兵士も、動物も!……シアン化合物を出して、万事めでたしなんてことはしない。むしろわたしは街頭で猫を追いかける、たとえ皮がむけ、疥癬にかかり、ニャオニャオ鳴いても、とんでもなくひどい代物だったとしても! それでもわたしのせいで苦しむより、添いとげてやりたいのだ……人間では男も女も、病人だけがわたしの関心を呼ぶ……ほかの立っている連中はみんな悪徳と悪意のかたまり……そうしたやつらの駆け引きにわたしは鼻を突っ込まない……その証拠に、どんなに連中が騒ぎをおさめても、住むことも生きることも不可能だ、地上でも空中でも地下でも! おまけに連中は愛を語る、韻文で、散文で、それから音楽で、それをいつまでもやめようとしない! この図々しさ! 子供をつくるなんて! どこまでもしつこく地獄に人を送り込む!

 セリーヌの『ノルマンス』を読んだ。本来なら『またの日の夢物語II』だったはずが、前作の売れ行きが非常に悪かったからタイトルを変えたらしい。いつの世でもありそうな話だ。なので話は前作から繋がってるともいえる。が、よくわからないがセリーヌ先生が急に大プリニウス気取りになってしまって、それがパリの空爆を克明に描くとおっしゃる。実際のところどれほどのものだったろうね。ちょっとおれは阿呆だからわからない。高坂和彦は『城から城』の訳注で、

『ノルマンス』には全篇にわたって連合軍による想像上のパリ空爆が描かれている。

 って書いてあんだけど。まあ、なにが想像でなにが現実かといったところで野暮な話といえばそれまでかもしれないが。でも、やっぱりあったんだろ、大げさに書いてるかもしれねえが。とくに前作から登場の胴体野郎が空爆の指揮をしているっていうなんちゅうのは。しかし……その描写も繰り返し繰り返し長えんだよなぁ。モスキートが、マローダーが! ブルルルルーン イギリス軍の飛行機はまとめてモスキートって呼んでたのが当時の風潮かは知らね。ともかく、ひたすらに空爆のすさまじさが繰り返される。冗長なほどに。

 わたしは時間刻みでお話ししている……ことの経過そのままに……ひどくジグザグだが……諸君もわたしと努力していただきたい、続けることにするが……諸君がいやなら、わたしを助けてくれないなら? 仕方ない! あきらめるだけ! 気のふれた大艦隊(アルマーダ)! タラブーン! 諸君は何も知らずにいるだろう、それだけのこと!……これほどの熱気、これほど燃え上がる炎、これほどの打撃、これほどの仕掛け花火、おまけに天井が揺さぶられ、床全体が転げおちる……床が波うちモザイクになる!……

 てな具合なもんだが、ブルーーフ! この本の翻訳者の梅木達郎先生によれば、本作は三部に分かれ、それぞれが戦時中、そして戦後にセリーヌが味わった立場、そしてその釈明みたいなもんに当てられているみたいな、そんなことが書いてあったような気がする。

書いてこう、ちゃんと書いておこう!……わたしには正しい裁きが下されなければならない。そうついでに言っておく、なにしろひどくいかがわしいたくさんの場所で馬鹿なことをしでかしたのだから……傲慢やうぬぼれから、そしてまったくグロテスクな軽率さから……その証拠がいまのわたしの状態だ!……

 そうなのかもしれないし、そうじゃあないかもしれない。ただ、『ノルマンス』も売れなかった。おれはそりゃあそうだろうって思う。政治的立場、人種差別者そういうもんじゃなく、なんつーのか、あんまりおもしろくねえから……。でも、意地になって読んでんだよ。おれは確かに読んだ。……以上が事実だ、まちがいない……。

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