やがて銀河とともに西へ行く

f:id:goldhead:20151027224815j:plain

秋も深まってきた。衣替えの必要があった。おれは魂の色をしていて、相変わらず金がなかった。自転車のブレーキは絞め殺されるイヌの鳴き声に似ておれを不愉快にさせた。誰も知らない夜のテーブルでささやかな飲み会が開催された。三者一致でおれに死刑判決を下した。いつ執行されるのかは知らない。いくつかの齟齬があってここにいる。決定的な間違いがあってこの底辺にいる。決定的な失敗でおれはできている。悲しみの底には沈まない。悲しみはいつもここにあっておれを包んでいる。おれには悲しみをなにかに喩える気力すら残っていない。おれの電池はもう切れかかっている。充電などできない、使い捨ての電池。きっと百円ショップで買ったのだろう。そういう人間を生み出す、失敗の配合が許される世紀がかつてあった。これから生まれてくるものは、すべて救われたものである。そこには失敗も存在しないし、なにより貧困は存在しない。もし、仮に存在するとしたら、ささやかな飲み会のメンバーが即座に絞首刑にするのだろう。世界はよい方向に向かっている。おれは悪い方向に向かっているのでその差は広がるばかりだ。しかし、おれの電池はもう切れかかっているので、これ以上悪い方向に向かうこともない。よい世界はおれとは無縁によい方向に向かい、みながみな幸せに包まれることだろう。祝福がそこにはある。おれにはないすべてのものがあって、おれは一人暗く悪いものの中に包まれて、黙って静かに冷たくなっていく。おれの絞首刑は緩慢なものかもしれないし、突如として執行されるものかもしれない。電池の切れかかったおれにはそれを調べる余力はない。アルコールが腹を満たして栄養は摂らない。不安心は薬物でしのぐ。ブレーキの音鳴りはブレーキシューの交換でどうにかする。おれの耳には絞め殺されるイヌの甲高いうめき声。おれの目にはサイケデリックな渦模様。バランスを失って部屋の中で転ぶ。おれはもう電池が切れかかっているので、あざがいつまでも消えない。深まってきた秋はおれに衣替えを促すが、そんな気にもなれない。安いラム酒を流し込んで昨日と同じ明日を迎える。やがて銀河とともに西へ行く。