「大ちゃん」

牛トレーサビリティー制度:1日からスタートhttp://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/wadai/news/20041202k0000m020060000c.html
 競馬馬(けいばうま)のトレーサビリティーといえば、もっぱら引退後の話である。出自については五代前の血統だってちょっとわかるシステムだ(と、書いていて思ったのだが、生まれたのがどこの牧場ってのはわかるにしても、入厩前の育成はどこで、などというのは限られた情報だ。しかし、それが馬券にどこまで影響するだろう?ただ、「マイネルの馬は仕上がり早」など、今でもある程度参考にはなっている話かも知れない。牛の話をしたいのに競馬の話が長くなるのはなぜだ)。一方、牛に求められるそれは出自の方だけであり、行く先はわれわれの腹が一番よく知っている。
 そして今朝、この制度についてフジテレビの「とくダネ!」でこんな企画をやっていた。スーパーで売っている肉をトレースし、九州の牧場を割り出す。そして、そこへ電話を掛けて「今から肉を買って行くので、一緒にすき焼きを食べませんか?」というもの。これはある種、悪趣味な企画と言えるかもしれない。牛を育てていた人のところにバラされた肉を持っていって、食うというのだ。
 しかしながら、興味深い企画であるとも思った。動物と接すると言えば身近なペットくらいであった自分にとって、畜産業をやる人と、彼らが育てる動物との距離感とはどのようなものか想像がつかなかったからだ。
 さて、レポーターはスーパーの袋を持って空路で九州へ。牧場を訪ね、その袋を持ったまま牛舍の前を歩く姿はシュールですらある。そして、たしかにこの牧場で育った牛と確認され、名前は「大ちゃん」だったと判明。かくして、「大ちゃん」は食卓に乗せられることとなった。この企画、かなり際どい。そんな気がした。
 すき焼きを食べながら、牧場の人はこの制度について一層の責任感を持って仕事に臨みたいとか、そんなことを言っていた。そして最後に、レポーターが(俺の興味の)核心に迫った。「ご自分たちが育てた牛を食べるというのはどうですか?」。それに対し「どちらかと言えば、知らない牛の方がいいなぁ」というような答え。俺は「なるほど」と思った。
 さて、この制度。肉売場で値段の都合から鶏か豚、それも内臓ばかり買う俺にはあまり関係ない。世の中にはこの制度から「大ちゃん」の存在に気づいてしまい、「ミート・イズ・マーダー」とか言って肉食えなくなる人もいるかもしれないな。いや、いないか。