『夢見る人の物語』ロード・ダンセイニ/中野善夫他訳

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「街はこんなにも美しいのに」魂は熱っぽい口調で言った。「ここでは何百もの人々が夢を抱いているのだ」―「不幸な肉体」

 ダンセイニの本を読むのは三冊目である。はじめに短編集『世界の涯の物語』(id:goldhead:20050110#p2)、次に長編『魔法使いの弟子』(id:goldhead:20050216#p3)、そして本作だ。俺はこの三冊目を、かなりの高熱がある中で読んだ。「不幸な肉体」はダンセイニ卿の夢見る魂にこき使われた肉体の嘆きだったが、俺の不幸な魂は肉体の高熱に眠ることも許されず、仕方なく夢の世界に逃げたのだ。そのせいだろうか、俺はダンセイニ卿の夢を倦むようにすら感じられてしまったのだ。そしてそれは、まさしく「夢見る力が弱まった」と述べる著者自身と同じように。
 中にはこんな展開も見られた。住む人が誰もいなくなってしまった都について語られた短編「ベスムーラ」について、その作品を読んだというハシッシュ中毒の男が作者に語る「ハシッシュの男」。まるで‘「SPACE ODDITY」のトム少佐は単なるヤク中だった’とデヴィッド・ボウイが後に歌うような悲しさだ。……というのは牽強付会かもしれないけれど。
 かといって俺はこの短編集を決してつまらないものというつもりはない。一瞬にして異境や異国、夢の世界へ我々を誘う魅力は変わらない。ただ、幾つか性格の違うものがあるのもたしかで、どうやらここら辺が作風の過渡期でもあるようだ。今後ダンセイニ卿がどのようなものを書いたのかは気になるけれど、いったんここらで本を閉じよう。