カープファン百万人、幻のヒーローインタビュー

goldhead2005-04-07

 パソコンからRCCのアナウンサーの弾むような声が聞こえてきた。「今日のヒーローは……」、広池浩司。俺の頭の中では広池がお立ち台に上がった。全国五千万人のカープファンのうち、百万人くらいは広池の幻を見たんじゃないかと思う。そう思いたい。しかし、広池にはそんな権利は当然ないし、本人だって絶対に上がりたくないはずだ。何せ、同点の場面に出てきてシーツに勝ち越しのツーランを打たれたのだから。そして、その前の攻撃ではツーアウトから内野安打で出走し、ヘッドスライディングで盗塁までしているのだから。
 投手が下手に出塁しない方がいいのは、プロ野球の世界では常識だ。終盤、わざと相手の好投している投手を塁に出す戦略だってあるくらいだ。たとえば、今年の開幕戦、巨人は終盤黒田のカウントがノースリーになった段階で、一か八か塁に出すべきだった。目先の走者一人よりも、投手が塁上に出ることのデメリット、というわけだ。それなのに、この日の広池は内野ゴロに全力疾走した。単独スチールを敢行し、ユニフォームを真っ黒にした。その結果が次の回のツーラン被弾だ。
 しかし、だ。誰が広池を責められよう? もし責めるものがあるとすれば、広池が自身について反省するのみでいい。高校球児のように走ったその姿が(ラジオなので俺は姿を見てはいないけれど。いや、目に見える物がなんだというのだ!)、チームに、ファンに、どれだけのものを与えたことか!
 広池は異色の経歴の持ち主だ。高校時代は投手だったが、肘を痛めて大学時代は野手に転向。そして、立教大学というそれなりの大学を卒業し、全日空に入社したのだ。もちろん、全日空に強い野球チームなんてありはしない。彼はエリートサラリーマンになったのだ。その彼が、空港で遠征するプロ野球選手たちの姿を見た。彼は安定した生活を捨てた。そして、異国ドミニカで一年の野球留学をしたのち、カープに入った。
 今日の試合、前田智徳はよく打った、嶋重宣もよく打った、もちろん浅井樹のサヨナラヒットは見事だ。しかし、俺は広池がヒーローだと思った。ときにこんな感傷的な気分になる。だからカープが好きだ。野球が好きだ。ひるがえれ、栄光の旗!

http://www.nikkansports.com/ns/baseball/f-bb-tp0-050407-0040.html

ナインの気持ちに火を付けたのは投手の広池だった。8回、内野安打で出塁すると、ノーサインで盗塁。投手が頭から滑り込んで気迫を表に出した。「点を取りたかった。後のことは考えなかった」と振り返る。この姿に、野手が燃えないはずはない。9回表にシーツに勝ち越し2ランを浴び、号泣する広池のためにチームが一丸となった。