『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』佐藤優

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 鈴木宗男を覚えているか。田中真紀子と外務省の話を覚えているか。そこに、‘外務省のラスプーチン’と呼ばれたノンキャリアの外務省員がいたのを覚えているか。この本の著者はそのラスプーチン氏。そして、はっきり言っておくが、この本はベラボーに面白い。これはある種のスパイ小説であり、北方領土を巡る歴史の解説書であり、日本社会の移り変わりを考察した論文であり、外務省員や政治家の裏話であり、「国策捜査」考察の書であり、いくつかの奇妙な友情の話であり、そして、優れた獄中記でもある。タイトルだけ見ると、国家への怒りやマスコミへの批判の本のようにも見えるが、そういう恨み辛みの暴露本では決してない。あくまで、情報収集・解析のプロとしての冷静なトーンが保たれ、筋を通そうとする確固たる芯があり、ある種の歴史観・大局観がある。しかも、この著者は同志社大学大学院神学研究科出身のキリスト者であり、国益のために身を投げ出す者でもある。なんだろね、もう、面白いですよ。
 ただ、とにかく著者の頭が良すぎてヤバイという気になる。ときおり挟まれるユーモアも、ちょっと日本人離れしている感じ。そんな中で、鈴木宗男が世界の中でもいち早くマスード死亡の情報を知り得るほどの情報網を持っていたとか、杉原千畝の名誉回復の立て役者だったとか読んでしまうと、イメージがコロッと変わってしまう。全般的にうまく丸め込まれてるような気になってくる。ただ、作中で誰の言葉だったか、「日本人の実際の識字率は5%で、それ以外は新聞すら読まないで、ワイドショーと週刊誌の中吊り広告で判断する」とかあったけど、俺の持ってるイメージなんてそんなものなのだよな。まあ、国際情勢も日本の行く末も知った事じゃないから、95%の一人としてスポーツ新聞を読むだけだ。逆に、それだけ蒙昧だから、こういう本を読んで楽しめるしね。

メモ:

 鈴木宗男氏は、ひとことで言えば、「政治権力をカネに替える腐敗政治家」として断罪された。
 これは、ケインズ型の公平分配の論理からハイエク型の傾斜分配の論理への転換をする上で、極めて好都合な「物語」なのである。

 俺はハイエクさんが誰かは知らないが、この点とパトリオットからナショナリストへの変化があるという。そして、後者同士の相性はよくないはずだとかなんとか。

ナショナリズムの世界では、より過激な見解がより正しいということになる。

 これは日頃そこら辺のネットを散歩していても実感できる話。政治は知った事じゃないが、こういうのは嫌な感じがする。