『ノア―動物千夜一夜物語』藤原新也

ASIN:4103692014
 藤原新也を読もうと思っていたら、偶然にも人から回ってきた。たまにこういう不思議なことがある。回ってきたのはハードカバーの単行本で、Amazonで見たところ『藤原新也の動物記』(ASIN:4101220123)と『印度動物記』(ASIN:4022641703)という名で文庫化されているようだが、それぞれの中身がまったく一緒なのかどうかはわからない。しかしこれは、何度文庫化しようが一向に構わないほど面白い本だ。
 中身はそれぞれの本のタイトルが示すように、動物に焦点を合わせたものだ(もちろん、動物ばかりじゃなく、聖人から乞食まで有象無象の人間どもも出てくるけどね)。筆者が「老境の楽しみにとっておこうと思っていた」と書いているように、とっておきの動物物の話が詰まっている。ロバの鳴き声と秘められた本性を描く「月下の驢馬」から始まり、どれもこれも魑魅魍魎の大陸の中に棲む動物たちの話は魅力に溢れている。死にかけの筆者が救われるエピソードであるところの「救命魚」や、なんとも幸福な気持ちになれる「牛歩来」など、特に面白い。
 まあとにかく、これはもう、藤原新也の著作の中でも、かなり好きだな、俺は。こんな本が古本で二百円も出せば買えるっていうのだから、世の中なんともたまらないものがある。そんなわけで、レッツ・リード・藤原新也、と無責任に他人に薦めたくもなってしまうのである。