『立喰師列伝』/監督:押井守

立喰師列伝 通常版 [DVD]
 まるで父の古い本棚の中身をつまみ食いしているかのような感覚があって、非常に楽しめた。くすんで、古く懐かしい昭和があった。戦後があり、学生運動があった。吉本隆明がいて、そして藤原新也村上春樹高橋源一郎がいた(『パン屋襲撃』のパロディ部分は村上源十郎、次に出てくる『カレー屋襲撃』は下の部分だけ見えていて「……橋源九郎」になっていた。観覧車んところのテイストはむしろ源ちゃんぽいような気がするがどうだろう。藤原新也っぽさについては、時代の切り方というか、全体的に雰囲気一致するところあるでしょ)。
 開始しばらくは不安になった。「ひょっとしたら寝てしまうのではないか」と。早口でまくし立てられる、回りくどい押井節、英語字幕などどうなっているのかと思ったら、用意されていなかった。しかし、しばらくすると、山寺宏一のナレーションが耳に心地よく、あとは名声優(声優よく知らないけど、たぶん。人物の方も名前は見たことあるよううな人達だったけど、俺は内輪ネタとかがあったとしても、さっぱりわからなかった)の声の劇にうっとり。繰り広げられるイメージは決して退屈ではなく、無駄とも思える贅沢さ、ミリタリや本(偽本)の裝幀へのこだわり、妙なかっこよさ、細かな遊びが連続して飽きさせるところがない。
 ただ、自分が何を観ているかさっぱりわからなかった。アニメ、映画? それとも教育番組? あるいは隨筆の贅沢な朗読? 原作が小説だと後から知ったが、まあしかしなんとも贅沢な何か化だと思った。まあ、なんでもいいのだけれど。ただ、もしこれ、映画館に行って観たら、納得できない感が強いだろうと想像できる。深夜テレビで偶然観たりしたら最高だろう。
 というわけで、「ひょっとしたらすげえつまんねえんじゃねえの?」という予感もあっただけに、よく裏切られた。人の頭の中の追憶と空想からほとばしるところを妙に結実させた怪作といっていいと思った。ある意味、『イノセンス』なんかよりキャッチーですらある、と。言い回しはまわりくどいけど、あんまり難しいこと言ってないし。
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 押井守を知ったのはいつだったろうか。たぶん、初めて作品を観たのは『うる聖やつら』の映画だろう。妙なアニメを観たという記憶はあるが、アニメ映画監督の名前などまるで意識することもない子供の頃。その印象が強く、『うる聖やつら』はずっとそういうものだと思っていて、後に漫画版を読んでえらく常識的に思えた。
 普通に考えれば、やはり『GHOST in The Shell』。嫌でも名前を知るところだ。が、しかし、それより先にケルベロスの漫画が先だったような気もする。漫画版のケルベロス。犬狼……なんとか。藤原カムイ(これの冒頭に藤原新也東京湾についての文章が引用されていなかったか)。中身など何も知らず、表紙の例のケルベロスを見て買ったのだ。その当時は少年ジャンプ中心の漫画読者であって、なかなか新鮮だった。そして、『赤い眼鏡』を観た。レンタルビデオ屋でケルベロスの実写があった、からだ。で、内容と来たらもうスカされたとしかいいようがない。今回悪い予感がしていたのもその辺が根強い。当時、俺小学校高学年、いや、中学に上がっていたかどうか。結局、俺と弟の間で流行ったのは、千葉繁がチャーハンおかわりを中国語で言うのを真似する遊びだけだった(……考えてみると‘イーガー’と聞こえた部分は餃子の王将ジャーゴンと同じものだろうか?)。これらと前後して、桜玉吉の漫画の中に出てきていたのを見ていたかもしれない。
 その後しばらくして見た『パトレイバー』の映画版。自分はガンダム派、という妙なこだわりと、サンデー的軟弱さをそれほど好きでないところから来る好みで原作は知らなかったが、これの映画二作にはしびれた。かっこいい映画があるものだと思った。あとは攻殻機動隊、『アヴァロン』(これは退屈だった。寝た)、『イノセンス』、かな。好き嫌いわかれる監督なのかもしれないが、俺は作品の中で好き嫌いがわかれるな。つーか、ここに書いたのがおそらくほとんど全てで、ほかのアニメシリーズや執筆などはぜんぜん知らないのだけれど。
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