『“It”(それ)と呼ばれた子』デイヴ・ペルザー/田栗美奈子訳

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 一時期流行したのかどうか知らないけれど、古本屋の100円コーナーでよく見かけるこの本。タイトルがタイトルでちょっと気になっており、ハズレ覚悟で買ってみた。100円といえ、つまらない本を読んだら大負けだ。
 して、結果はどうだったのか。これがもう、当たりとは言えないものの、ハズレとも言えない。というか、ただひたすら著者自身が受けた虐待について綴られており、評価できないというかなんというか。余計な物を足さないし、引かないという感じだ。同じ虐待話が出てくるといっても、『心臓を貫かれて』(ASIN:4167309904)みたいに家系を遡って闇に光を当てようともしない。ひたすらに子ども目線で虐待を受けるさまを描き、その内面を吐露する。
 で、虐待なのだが、これが本当に虐待であって、ルナールの『にんじん』(id:goldhead:20050804#p2)なんて、どうってことないぜって感じだ。しかし、この著者の対応も見事と言ってはなんだけれど、深く深く傷つきはすれども、心が折れない。しかも、小学生がこんな目に遭ってよくこんな、というテクニカルな対応すらする。いや、いかなる状況においても、人間とはそういうものなのかもしれないが。そういう意味で、ナイフで腹をブッ刺された直後にいかに皿洗いをするかとか、アンモニアと漂白剤による有毒ガスでいっぱいになった浴室からどう生き延びるか、などのマニュアルとも言えよう。言えないか。
 というわけで、虐待による暴力の悲惨さや、壊れていく家庭の様子について、手っ取り早く実例を知ることのできる一冊であった。このケースでは、母親を頂点とする一種のカルトみたいになっていたのかもしれない。まあ、そういう分析はいっさい入っていない。文字も大きくルビも振られ、子どもにも読んで貰えるようにした本なのかな。子どもに読ませて、別の意味でトラウマを負わなきゃいいけれど、とも思うけれど。
 で、この後の著者は診療を受けて空軍に入ったりして立ち直ったりするらしいが、まあ、そこらあたりまで追うつもりはない。