神の馬ラムタラは栄光馬ガルカドールの夢を見るか?

44億円ラムタラ2760万円で英に売却
http://www.nikkansports.com/race/p-rc-tp0-20060704-55234.html

中央での平地重賞勝ち馬はメイショウラムセス(02年富士S)1頭だけ

 この一報を聞く前の俺に「ラムタラの代表産駒は?」と問わば「ラムタラプリンス」と答えたであろう。メイショウラムセスの名前などまったく覚えていなかった。他に障害でミレニアムスズカ、地方でマルカセンリョウ。現役時代と比べてあまりに寂しい。しかし、こうなることを誰が予想‘しなかった’であろうか? とは言い過ぎかもしれないが、俺は導入の話を聞いたとき、「絶対に失敗する」という予感があった。むろん、ラムタラを三十億円出して導入した人たちには、プロとしての考えがあってそうしたのだろう。しかし、馬券予想的な気楽さから普通に導き出せば、ラムタラの血は重く、ノーザンダンサーの濃いクロスは使いにくく、英国ダービー馬が失敗に終わるジンクスがあり、と、あまりにもマイナスが多いように思えた。
 俺はこの「神の馬」を生で見たことがある。北海道でただ一度牧場巡りをしたときのことだ。ラムタラは馬房から首を出していた。俺は使い捨てカメラで写真を撮った。「こんな至近距離に、この馬がいていいのか」という印象だった。そして、彼の値段のことばかり頭をよぎり、それ以上の印象はなかった。
 しかし、このラムタラ、生きてかつての戦場であるヨーロッパに帰れるというのは幸せかもしれない。「日本は名馬の墓場」。だんだんこの言葉から脱却はなりつつあるが、やはりまだ循環は少なく思える。先日読んだ寺山修司虫明亜呂無の対談集(id:goldhead:20060628#p1)に、ガルカドールという英ダービー馬の話が出ていた。

虫明 かつてイギリスのダービーを制した馬が日本に来て発狂して、淋しく生きて、やと写真を撮られるようになったというのは、やはり哀れだな。

 なんでもこの馬、日本への輸送中に記憶喪失症のようになり(馬の記憶喪失ってどう判断するのだろう?)、オマケに担当になった世話係(「馬丁」という言葉からの言い換えです。俺って近代的)にいじめられ(いい馬を担当することで周りから嫉妬され、いじめられ、それを馬にぶつけたという)、ついには発狂してしまったという。発狂したガルカドールにはもはや触れがたく、たてがみも尻尾も伸び放題。彼らが牧場を訪れたときには、ずいぶん大人しくなったというが、最近も人間の服を胸肉ごと食いちぎったりするようで、カメラマンもこわごわと撮影したというのだ。
 もちろん、今どきこんな話はないだろうし、ラムタラは厚遇されていたであろう。とはいえ、種牡馬としての先を考えれば、ヨーロッパ帰りはいい話だろう。年齢的に種牡馬としての旬となるとどうかわからない(やはり五歳のときの精子と十五歳のときの精子では、精子的に一緒でも中身は違うのではなかろうか。距離適性なども種が年を経るごとに変化するし)が、奇跡の馬らしい一発をかの地でぶちあげるのを期待したい。