作家の吉村昭氏の訃報に際して吉村昭氏の三つの作品についてのメモ

http://www.sponichi.co.jp/society/news/2006/08/02/08.html

戦艦武蔵」などの記録文学や「ふぉん・しいほるとの娘」「破獄」「生麦事件」などの歴史小説で知られる作家の吉村昭(よしむら・あきら)氏が7月31日午前2時38分、膵臓(すいぞう)がんのため都内の自宅で死去した。

 『戦艦武蔵』(ASIN:4101117012)は普通の戦史ものではない。まず、漁に使われるシュロ縄が市場から消えたところから話がはじまる。これがすごい。俺の中ではシュロ=武蔵、武蔵=シュロというくらい印象深い。記録文学と言われるだけある、まさに膨大な記録からの細部の積み重ね。淡々としていて、重厚。しかしながら、進水シーンの緊張感と来たら、下手な戦闘シーンより手にあせ握る。読み物としての魅力も十分。あわせてその取材記録である『戦艦武蔵ノート』(ASIN:416716910X)も面白かった。
(関連:その他の太平洋戦争もの→http://d.hatena.ne.jp/goldhead/20050413#p2
 『羆嵐』(ASIN:4101117136)も同じく記録文学といえようか。北海道入植者たちと、人喰いヒグマの戦い。一度人間の味を覚えたヒグマは、人間ばかりを狙うようになるという。映画『ジョーズ』などのパニックものようなスリリングな魅力もあるし、猟師たちの技も細かい。しかし、そればかりでなく、人間と人間、極限に追い込まれた人間の営みについて、あるいは人間と自然について興味深く読めたように思う。まあ、これも誰彼なく安心して人に薦められるくらいの名作と思う。
 たった三冊。まだまだ読み進める先ががあるが、その先が限られてしまった。合掌。