ここのところの忙しさには腰骨が折れそうになっているが、神の助けというかなんというか二種類のビール券が九枚手に入る。ビール券て一枚いくらだろう、五百円するのか、しないか、売ったところで四千円内外、それならばこのビール券九枚分が十八本のビール缶に化けるというのは悪くないように思え、なにやらビール缶出ずる小槌手に入れたような気になって、残業の遅く一人のどの渇きを覚える。平素キリンビールを贔屓する自分だが、いつだったかのどがとても渇いたときに飲んだサッポロ黒ラベルの美味しかったこと思いだし、思いは黒ラベルとなり、インターネットでビール券がコンビニ、セブンイレブンで使えること確認して、それでもこの、なにやら発行の古そうな券が使えるのか使えないのかの懸念も抱きつつ、レジ周りや入り口などにい使えるなり使えないなりの表記でもないか最後に確かめたくもあるが、あまりジロジロ見つめるのも奇異であろうし、わざわざ先にビール券使えるか否か尋ねるのもはばかれるように思える。とにかく酒コーナーにたどり着き、黒ラベル探すも影も形もなく、キリンラガーを選ぶもなにやら物足りなく思え、ついでの新聞とテレビブロス抱えレジ待てば、気の利いた男性店員が閉鎖レジへ誘導、バーコード操作始める前にサイフからビール券取り出して「これ使えますか」と問えば、横の壁のすっかり色あせたカラーコピー指し示して、「組合が違うからそれは使えないんですよ、すみません」と、なるほどコピーにうっすらと俺のビール券の図案、そして組合とはなんぞやと思うまもなくビール券のかわりに千円札を取り出して「ああ、そうですか」と余裕の返事、決して俺はビール券あるからビール二本買うつもりだったのではないと必死のアピールは、果たして底を見抜かれているようで自分が情けない。買える道すがらもビール券とその組合について思いを巡らし、どこか「ビール券でお買い物できます」と大々的に表示したスーパーがあったように思えるがあれはどこだったのか、組合は大丈夫なのか、何か事前に調べられないのかと思い悩み、他人から見ればじつに些細で下らぬこういったことに俺の脳や心はすっかり占領され、俺のこのじくじくとしたつまらない不安や迷いは幼い日より変わらず、死ぬその日までかわらず、こういった些細なことに大事な何かや多くの人々が乗り越える壁に破れ、また破れる前に避け、結局のところ最後まで孤独のなかにあるだろうと思う。