アビゴルの女、前一横一の男

 その後ヴィラーゴ(id:goldhead:20070210#p2)を何度か見かけたが、いずれもママチャリであった。ヴィラーゴにとってタクシーはたまのことであって、俺がママチャリヴィラーゴを見てもヴィラーゴと認識していなかっただけの話であった。
 通勤路にはアビゴルもいる。何という名称なのか知らぬが、マントのようなものを羽織った女だ。マントの先は肘より下にまでとどいて、なんとなく三角形のような印象となる。おまけにちょっとごつい手袋、手甲のようなものをつけているので、ますますモビルスーツの気がする。……などと書くと変人のようだが、実際に目にすれば至極真っ当な現代的な装いに違いなく、俺の中で誇張され、また、俺の表現力がないだけである。実際はおしゃれ、といってよい。
 このアビゴル、ほとんど後ろ姿しか知らぬ。このアビゴルの機動力は相当のもので、ものすごい速さで駅に向かって進む。ときおり腕時計を見ては、小ダッシュを繰り返す。俺はとてもじゃないがついていけない。
 なぜついていこうかいうと、決して怪しい意図があるわけではない。早足を心がけようとしているだけである。なぜ早足を心がけようとしているかといえば、俺が俺の歩行速度に失望することがあったからだ。
 俺は都会並の歩行速度で都会のラッシュを歩いたこともあって俺としてはそれなりの速度のつもりだった。が、朝歩いていて、いかにもとって付けたようなチョイ悪風の中年男の、革のパンツもきつそうなのがポケットに手え突っ込んで、ちんたら歩いているのに「抜かされた」のである。そのショックに目を疑い、その先を見やれば、定年退職後というのは確実に思われる老夫婦が歩いており、その老夫婦との距離も縮まるどころか開くような状況だったのである。俺は歩きながら無駄なことを考えているが、歩きがおろそかになっていた。このおろそかさがやがておそろしい失態などに繋がるかもしれぬ。というか、社会人速度で歩くことができないというのは空おそろいだが、俺はアビゴルに追いつけぬ。前一横一氏にすら追いつけぬ。
 前一横一氏についてはいずれ書く。