木の上の猫のことなんだけどさ

 一昨日の朝、会社行きがけに、アパートの前の自転車停めてあるところから、木の上で猫が寝てるの見つけたんだよね(http://d.hatena.ne.jp/goldhead/20070821#p1)。暑いから涼んでるんだろうな、くらいにしか思わなくて、ケータイで写真撮ってさ。
 それで、また昨日の朝なんだけど、木の上にまた黒い塊があって、やっぱりまた猫がいるんだ。それで、まったく動かないから、ひょっとして死んでるんじゃないかと思ってしばらく見てたら、ちょっと動いてこっち見たんだけど、なんかだらしなく舌出して、あんまり元気そうじゃないんだよね。ひょっとして、降りられなくなってる……ってちょっと思ったわけ。でも、細い路地から数段階段を下がったとこの空き家の庭先から生えてる木、直立してるようなやつじゃなくて、ちょっと坂っぽいし、なんなら路地側にだって来られるし、そのまま下に落ちても、猫なら超余裕の高さだと思ったわけ。まだ一日だし、大丈夫かなあって思ったわけ。
 んでね、次に猫を見たのは今朝の朝四時ごろで、俺はそれまで仕事してて、帰ってきて、あたりはまださすがに暗かったんだけど、やっぱり黒い塊がいて、暗い中で目をこらすと猫の目が光ってさ。こっちも猫の目ぇ見るんだけど、どうしようもなくて。早朝で、なんか風が吹いてて、それでも猫は見ていてさ。でも、暗いし、木登るわけにもいかないし、部屋に帰ったわけ。
 それでベッドに寝っ転がったんだけど、やっぱり猫が気になって、どうしたかっていうと、ケータイで検索したんだからたいがいにしろって話だよな。それで、やっぱりどっかで猫が木から降りられなくなって、消防隊が出動とか、そんな昔のニュースの断片とか見て、でも、可哀想だが前例を作れないって、消防隊が出ない話とかあって、それで、猫って登るのは得意だけど降りるのは苦手とか言う話も出てきて、どうしようかって思ったわけ。市役所が配ってる冊子みたいなのめくってみたら、死骸のことは出てるけど、降りられない猫については何にも書いてないんだよね。
 それで、外見たらちょっと明るくなってて、木曜の朝だからビン・缶・ペットボトルのゴミを捨てにいける時間じゃん。それで俺は、音立てないようにゴミ集めて、ある決意して外に出たわけ。ひょっとしたら猫はあの場所が気に入って、朝だけあの場所にいるのかもしれないけれど、降りられない可能性もあって、このクソ暑さの中ではさすがに厳しくて、あの高さなら猫は落ちても大丈夫だし、ちょっと脅かしてでも、降ろした方がいいんじゃないかって。
 それで、五時過ぎで人もぜんぜんいなかったんだけど、また猫に近づいて、猫は全く動かないで顔だけ動かして、俺が位置を変えたらこっちを見て、なんか舌はだらしなく出てて、いや、俺だって実家にいたころは猫を二匹飼ってたから、別にそれが危険のサインとは言えないけど、なんか不安になったんだな。それで、ちょっと空き缶、それもツナ缶のやつをかんかんと音立ててみて、それで猫まっしぐらになったら楽なのにって思ったけど、身じろぎひとつしないってわけ。
 これじゃあしかたないと思って、俺は自転車のワイヤーロックを外して、猫に当たらないように目測つけて、端をしっかり持って、えいって猫の前に片端が行くように投げてみたわけ。したら、キャッと後ろに下がって、なんか一歩上のもっと細い枝に移動してしまったって次第。ああ、大失敗だ。でも、少しは元気ありそうだけど、降りられそうな気配はないし。
 しかし、俺は窮地に追いやってしまったのかと、このままゴミ捨てに行って帰るのもなんだし、周りは明るくなりはじめて、風とか吹いてたけど、俺は途方に暮れて、うろうろして、チッチッチッとか気を引こうとしたりしても、猫は警戒してるし、動かないし。
 したら、向こうから何匹か小型犬、何匹かはノーリードの小型犬連れてきた老夫婦来たんだわ。これはチャンスだと思って、俺が早朝の怪しい若い男というのは承知だけど、細い路地すれ違うとき、おばさんの方が小声でおはようございますって言うから、俺もおはようございますって言って、「あれっ」って指さして、「あの猫降りられないみたいなんです」とか言って、昨日も見たとか話して、おばさんちょっと乗ってくれて、でも「あの子歩いてるの見たかしら」とか言って、で、おじさんの方が来て、おじさんも話聞いて、でも大丈夫だよ、野生だよ、この高さならって言って、それでもおばさんは木の方がこっちから見たより高いとか言って、それでも結局この三人でどうにもできるものでもなく、おじさんが大丈夫、大丈夫言って去って、俺も「どーも、大丈夫っすよね」とか言って、ちっちゃい犬が俺の足にまとわりついてたけど、俺は犬の扱い知らなくて。
 それで二人がゴミ捨て場の方へ歩いていくもんで、後から歩いていくのも嫌なので、俺はしばらくまた猫見てて。でも、少なくともこのルートを散歩するおばさんに事態を知らせたのは悪くないとか思って、それで、ちょっと肩の荷が下りたような気がして、ゴミ捨てに行って、猫見て、また部屋に戻って、もう六時とか近くなってて、睡眠時間二時間じゃんとか思って。
 で、二時間経って起きて、大雨が降って、雨に驚いて猫が降りればいいとか思って、それで、でっかい傘さして階段降りて、乗れない自転車の方へちょっと言って、枝の上見たら猫いなくて、空き家の軒下の方に座ってこっち見てたんだ。