慄然の煙幕

 そりゃ得意な人なんていないだろうけど、俺はタバコの副流煙が苦手で嫌いで、そのせいもあってタバコを吸い始めたくらいなのだ。自分の煙で他人の煙も煙に巻けるからね。だけど、やっぱり煙者になっても副流煙は駄目だったな。
 と、過去形入ってしまうのは、俺がここ二ヶ月くらいタバコやタバコに類するもの(ハーブ煙草、紙巻きシガー)などを一切吸っていないからなのだ。憎むべきは金欠なり。
 それで昨日の晩のことだ。帰り道、俺の前を歩くサラリーマンが歩きタバコしておったのだ。当然煙は俺の方に。俺は元より苦手なので、「嫌だな」という気持ちになるも、案外向こうも早足なので追いつけない。しかし、今まで以上に気持ち悪い。これがタバコから遠ざかった結果なのか。
 ……と思っていてふと気づいた。もう、前の奴はとっくにタバコ吸ってない。それなのに、鼻やのどを刺激するのは何だ? 排気ガスだ。これには驚いた。タバコだと思っていたら、いつの間にか排気ガスに弱っていた。俺は別に今まで排気ガスに弱いと思ったことはなかった。もちろん得意な奴はいないと思うが。
 それが昨夜限りのことであれば、副流煙に弱ったところへの打撃、ということになろうが、なんと今朝も排ガスが気になって気になってしかたなかった。トンネルを歩くのがきつかった。これはなんだろう?
 あまり考えたくないが、この季節に目や鼻を刺激するのは花粉だ。ひょっとして、花粉の影響が体に出始めて、ついでに排ガスにも弱くなっているのか。そんなことがあるのか? よくわからないが、俺は対処と予防のためにコンビニでマスクを買った。世界はこのか弱い自我に対して敵ばかりだ。Shut out the world, it's getting worse/Save yourself, don't leave the house、か(Chumbawamba 'Pass It Along')。