『時間のかかる彫刻』シオドア・スタージョン

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●MP3プレーヤーの中で、忘れていたテキストを発見。それぞれの話について、もっと詳しく感想を書いておこうと思って、そのままほったらかしになっていたものだ。そのときどきに書けるものが、そのときどきに書けるもののすべてだと思った方がいいのかもしれない。
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 スタージョンの短編集。『夢みる宝石』(id:goldhead:20070516#p4)につづいて二冊目。というわけで、まだまだスタージョンがいかなる作風(のバリエーション)の持ち主かようわかっておらなんだけれども、いや、これを読んで幅広さを実感した次第。読んでいて、いろいろな小説家の作品を読んでいるような気になった。面白い。

「ここに、そしてイーゼルに」
画家が作品を生み出す過程に、中世騎士の、魔法使いやヒポグリフが埋め込まれた妙な話。この、現実とあっちに行ったり来たりの感は、ロード・ダンセイニの晩年作品っぽいかな、とか。この話は時期的にもほかの収録作とは違うらしく、毛色も違って、なるほど解説にある通り後回しにしてもよかったか。
「時間のかかる彫刻」
スタージョンってのは、どっかしら禅っぽいところがあるな、とか思ったり。って、ここんところ禅かぶれの俺は思うのだけれども。これは表題作で、賞を取ったりしたものとのこと。で、なるほどそりゃあうなづけるわ。最後の一行読み終えて、思わず「おお」言うくらい。そういや、キルゴア・トラウトのモデルがこの作者だって話があるらしいが、名前だけじゃなくて、ほれ、どっかの小説で、SF作家の集まりがあって、そこで、本当に人類のことを考えているのは、SF作家というすてきな大馬鹿やろうだみたいな、そんなん、思い出したわ。
「きみなんだ!」
SF小説。まるで、レイモンド・カーヴァーでも読んだかという気にさせる。いや、そこまでミニマムではなく、もうちょい饒舌だけれども、最後に行くにしたがってさ。
「ジョーイの面倒を見て」
こちらも非SF。ちょっとした、それでいてなんとも言えぬオチまである。ロアルド・ダールの短編……にしちゃ、ちいっと泥臭いか、いや、しかし、そんなのを連想させる。
「箱」
これはSF。人称が気になる。叙述のあれかと思ったが、そうでもなかったけれど。
「人の心が見抜けた女」
ラストがいい。最後のセンテンスにしびれる。なんとなく、ジェイムズ・エルロイ(それほどカリカリのやつじゃなくて、あの犬の短編とか)みたいだ。
「ジョリー、食い違う」
せつない青春白書というかなんというか。なんとなくいろいろの小説を通して見られる、アメリカ青春の一コマという感じ。こういう感じは、アメリカの小説ならではだなぁと思う感じ。で、これとは逆に「食い違わない」タイプのあたたかい話も少なくないよね。誰のだっけ、ババアからひったくりしようとしたら、でかくて強いババアで、逆に……みたいなのとか。
「<ない>のだった―本当だ!」
バカや! でも、俺、トイレで試したけど、それほどでもなかったぜ! まあ、今は二十一世紀だしね!
「茶色の靴」
テーマ的には「時間のかかる彫刻」と一緒か。あるいは、このあたりの、世界に対するまなざしは、カート・ヴォガネットと似たところがあるように思える。
「フレミス伯父さん」
これはいいな、この作品集の中では一番好きかもしれない。こういうほら話的な、そういうの、なんか表現あったよな。映画『ビッグ・フィッシュ』(id:goldhead:20050616#p2)とかさ。まあいいや。あんまり暗くないオースターみたいな感じでさ、いいよ。
「統率者ドーンの<型>」
これはSFらしいSF。ただ、なんかぴーんとこない。ラストから見るに、なんか別のに続くとか、そういうの? 
「自殺」
これはミニマムに死から生へ再帰するところの話。

 ……というわけで、いや、やっぱりいいな。俺、スタージョン好きみたい。ほかの作品にもあたってみよう。