『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』/総監督:庵野秀明

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※以下にネタバレとかあっても知らない。気をつけはします。

復習、そして予習

 やっぱり、いてもたっていられなかったですよ。出不精この上なく、一人で慣れないところ行きたくない病の俺ですよ。でも、その病をおして春エヴァ夏エヴァ(この呼び方当時もあったっけ? http://www.tbsradio.jp/life/2007/09/post_31.htmlのラジオから)を見た十年前と一緒なんですよ。それで、上の竹熊健太郎宮台真司のラジオで復習と予習までしましたよ。エヴァンゲリオンは観たっきりだったですし、まったく新生な気持ちで観てもいいけれど、いや、ちょっとくらいは、という思いもあったし、やっぱりどう観ようかみたいなところもあったのですよ。

エヴァとわたくし

 テレビ版の放送時、俺は高校生だったですよ。高校生だった俺は、アニメに興味なかったですよ。ゲームと、漫画でしたね。そんな俺に、友人たちがやけに勧めてきた、「エヴァは観ろ、絶対に気に入る」と。あるとき、ふと気づいてチャンネルを合わせた・合わせたとき映ったのはなんだと思いますか? カヲル君がむんずと握られているあのシーンですよ。誇張じゃないですよ、「なんだこれ? 放送事故か?」って思いましたよ。えー、なんだこれ、なんだこれ、ですよ。それで、パイプ椅子に主人公、自己啓発セミナーですよ。それで、なんだ、なんだってなったんですよ。あとで、深夜再放送全部録画して、すげえ観たですよ。映画も観て、二度ともガーンとやられましたよ(春の方のラストで、量産型がグルグル回ってるシーンが、今のところ全編通してすごいシーン、夏では、やっぱりあのラストでいきなり照明がついて、幕が閉じていって、なかなか現実に戻れないような、あの感じ。今はなき、藤沢オデヲン)、本も買ったし、ネットでも色んな考察読みましたよ。エヴァの怖さに浸ったですよ。

そして、今回

 それで、今回は同行者がいましたけど、エヴァどころかアニメほとんど観たことないような人ですよ。前にパイレーツ・オブ・カリビアン2を誘った人ですよ。そのとき、その人に聞いたパイカリの前作のあらすじは「女の人がいて、海賊が来た」というものだったですよ。ですから今回、予備知識を聞かれたので「主人公の男の子が、いきなりお父さんに呼び出されて、わけのわからんでかいのに乗って、わけのわからん敵と戦えって言われて、‘えー!’ってなる話」って言っておきましたよ。親切ですよ、俺。それで、その自分の説明に乗って観賞してしまったところはあるんですよ。あと、初めてエヴァに接する人は、どう観ておるんだろうかとか、ちょっと余計な雑念は入ってきましたよ、雑念エンタテインメント。
 それで、始まってみて、これはもう正直言って、なんだかわからないけど、目頭が熱くなってきましたよ。うわーエヴァンゲリオンだって驚きですよ。当たり前ですよ、チケットを前々日にネットで予約して来たんですから(今回はワールドポーターズの方に行こうとしてた! マジで)、別に当たり前のことで、釣りバカ日誌がはじまったら驚けって話ですよ。それでも、なんだか妙な気持ちでしたよ。それで、シンジ君とかミサトさんとか出てきて、なんだかおもはゆい感じですよ。スーさんは年取りすぎだと思いませんか?

細部が好き

 俺は、映画とかの大道具・小道具・細部が好きなんですよ。作品論やなんかを正面切ってどうこうする能力もなにもないですし、そりゃ大道具・小道具を正面切ってどうすることもできないですけど、ああともかく、いいなあって思う大道具・小道具が出てくる作品はいいなあって思うんですよ。俺の中でエヴァ大好きの三分の一はそれですよ。十年経ってもフォントワークスですよ。再構築だからって、モリサワに鞍替えしたりはしない、意表を突いてダイナフォントにするわけでもない、そんな文字からしエヴァなんですよ。
 それに今回は、第三新東京市がCG(CGI)ですよ。正直、そういうのが入ってくるのはどうかと心配だったところもあるけど、バッチリ過ぎる、そう思った。エヴァといえば、なんかクルクル回ってがっしゃーんってなったり、ハッチや非常扉がパカパカパカって開いたり閉じたりするところにあると思うんだけども、いやあ存分ですよ、存分。
 それでもって、クライマックスのヤシマ作戦の電力ですよ。最後のスタッフロールに「東京電力」の文字があったと思うけれども、電力集め感満載でしたよ。テレビじゃここまでではなかったでしょうという具合ですよ。もちろん、あの、日本列島の光がパッ、パッってのもあって(旧東京付近あんなに明るくていいんだっけ? ……違うよねぇ。ああ、「いい」ってのは旧作との整合性を考えるとしたら)、それで、ねえ。しっかし、「駄目です、出力足りません! 新柏刈羽原発2号機、3号機、4号機、7号機沈黙」……ってことにならなくてよかった!
 あと、シンジ君の携帯音楽プレイヤーですけど、あれは変わらないんですね。MP3プレイヤーみたいにはなってないですよ。それに、作中に出てくるノートパソコンももっさりしていた感じで、そのあたりはリビルドしないんでしょうかね(ひょっとしてそんなところに意味が……?)。
 それと、ローソンのシーンだけど、レジ横に「セカンドインパクト募金」(今回、どんなセカンドインパクトだったか、あんまり語られてないよね。ミサトさんに傷跡あったっけ?)とか、まあ、やたら出てくるUCCとか、そういうのもいいよね。施設にはちゃんと「安全第一」とか、そのあたりのそういうところ、俺がエヴァ好きなところなんですよ。

ものがたり

 それで、そういうところ以外を、さあ感想を書けっていわれると困ってしまうのですよ。レイの血のついた手の平のアップを見て、赤でない白い液のアップを思い出したりとか、そういうことならいろいろあったりなかったりするけれども、さあどうしようと思うですよ。
 いや、そこまで意気込まなくてもいいのかもしれんです。ともかく、これは旧作テレビ版のスタート部分ですよ。駆け足なのは否めないけれども、ハイクオリティなロボットアニメとして楽しめますよ。血がブシャーってなりまくってすごいもんですよ。
 ……いや、しかし、やっぱり今回のガーンは、渚カヲル君ですよね。予告編ですよね。もう、エサを投げ与えられた空腹の犬みたいなもんですよね。いや、それまではあんまり餓えにも気づいていなかったかもしれない。それでも、カヲル君の数少ない台詞で、なんか『マルホランド・ドライブ』に陥ったような気がしましたよ。ガーンって、すげえ怖い、やっぱりエヴァこわっ!って思いましたよ。台詞の意味はわかりゃしませんが、そのニュアンスってあるでしょう。ゾクゾクしましたよ。この既視感と違和感のない交ぜの悪夢感。胎児よ胎児、なぜおどる? 母親の心がわかって怖ろしいのか? 反復の恐怖ってありますでしょう? 円環の恐怖ってありますでしょう?
 私も十二年前より少しはかしこくなったかもしれませんよ。『ヴァリス』だって、『聖なる侵入』だって、『ティモシー・アーチャーの転生』だって読んだし、仏教についてだって、牛の足跡くらい見た気にはなっているかもしれませんよ。だけれども、何も変わらず、ゾクゾクしびれて、やっぱりエヴァはすげえですよ。SFもいろいろ読みましたよ、エヴァはハードなSFなんだなって気づきましたよ。SF読むようになって気づいたけど、これが俺がEVA好きな三分の一ですよ。さらには、ものすごいとこに連れて行ってくれるSFも、作品内で作品内なりの結論があるのに対して(P.K.ディックはどうだか)、エヴァは投げっぱなしでさあ論じろ、考えろ、って、そういうのは特異なんかなって思いますよ。

ちなみに、初見の人の主な疑問点。

 「あんな大事態になってるのに、人々に緊張感がない」→あー、いや、あの街とかは関係者とかが住んでて、ほら、なんかあったら避難してたじゃん。それに、ウルトラマンの世界とかだって、怪獣来るけど、日常生活もあるじゃん。あの、テレビだと、もっと日常生活も描かれてたんだけどね。
 「出てくるのが若い女キャラばっかり」→あー、いやー、だって、アニメってそういうもんじゃない。ほら、あんまりオバサン出てこない。オッサンは出てくるんだけどね。
 「人類補完計画って何?」→あー、いやあ、それは、その、ほら、これは第一作、物語の導入だから、わからなくて当然なんだよ。全然問題ないよ。つーか、前作観た人だって、うまく説明できないし……。

今後

 観ようか観まいか迷ってる人や、おおいに変わりそうな次からでいいやって思ってる人には、観ろっていいたいですよ。観なきゃもったいない。総集編的ではあるけど、違うよ、全然違うよ。大丈夫だよ。これに乗っておいた方が楽しいよ、そう思うですよ。いやあ、まったく、こればっかりは次も観るのは確定ですよ。下手したら、旧作の何かに手を出したりするかも! そのためには今日、アクレイムには勝ってほしかった! チケット代に加え、パンフレットと携帯ストラップまで買ってしまっていたし!