- 作者: フィリップ・K.ディック,Philip K. Dick,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1992/04
- メディア: 文庫
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「わたしには魂がないんだ。十二歳になっても何事も起こらなかった。わたしも連れていってくれ。わたしの魂を見つけてくれりゃ別だが」
ディックの短編集。表題作の「まだ人間じゃない」がやはり一番印象深い。人口抑制政策が進む未来、産後墮胎、12歳までの子供には魂が無いとされる社会が描かれている。俺はタイトルとそういった設定くらいは知っていたが、もっとパニック的であったり、大々的なものかと思っていた。もっとすさまじいディストピアが描かれていたのかと思った。ところがこれは違う。どちらかといえば、ある一日のできごとを淡々と描いているに近い。変革への最初の一撃になったのかどうか、それもわからない。ラストの余韻などは、どこか『ティモシー・アーチャーの帰還』などを思わせる。
ところで、自らのあとがきに書いているように、現実の墮胎への批判という要素も大きい。現代ではまた事情は違うかも知れないが、当時の墮胎推進論者(フェミニズム的な?)が読んだら、かなり不快に思えるんじゃないかって書きっぷりの部分もある。俺の目から見ても、ちょっと言い過ぎじゃねえのって感じの。でも、それもまた、彼自ら書くように、愛から出ている、愛というより、慈悲、ディックの慈悲心から出ているところは疑えない。
他では「最後の支配者」。少しマトリックスなどを思わせるようなSF。こういった設定、発想、1954年のものだというのだから、相当早かったんじゃないだろうか。価値観が二転三転していくところがおもしろい。あとがきの作品メモでディックはこう言う。
わたしがロボットを信用し、アンドロイドを信用しないのは、興味深い。たぶん、それはロボットがその正体を偽ろうとしないからだろう。
ほか、ディックならではの玩具もの、妙な異星人もの、超能力者など、やはり短編のディックは切れ味鋭い。いや、傑作選だからであって、そうでない短編がその倍もあるのやもしらんが……。