交差点から消えた男の事件

三月三日午前一時三十分ころ、ここの交差点で
ワゴン車と年配の男性の交通事故があり、男性の身元が
わかりません知っている方、連絡をお願いします

 事故の目撃者に呼びかけるありきたりな看板……なのだけれど、意味がわからない。「男性」はどうなったのだ、「年配の男性」は。
1.事故のあと、年配の男性はどこかに立ち去ってしまった
2.事故のあと、年配の男性の記憶がどこかに立ち去ってしまった
3.事故のあと、年配の男性の魂は天使様に連れられて銀河の西へ行ってしまった
1.だとどうだろう。呼びかけがおかしくなる。身元というより、本人に出てきてほしいはずだ。2.はどうか、記憶喪失だ。しかし、それならば本人の風体などを記すはずだ。
 となると、3.だろうか。いや、3.しかないのだ、こんなにつらつら書くことはない。身分を証明するものも持たず、捜索願を出す家族もないドヤの住民が轢かれて死んだのだ。だって、さっき角のミニストップの前でプリンパフェ食いながら天使様がそう言ってたから。だから、意外だったのはここらあたりが加賀町署でなく伊勢佐木署の管轄だったということなのだけであった。