先日ふいに湧き上がった「伝奇欲」を満たすために、ブックオフを物色。やはりこれに行き当たってしまった。正直、取っておきたかったところでもある。しかし、いまこの欲が湧き上がっているときこそ、これに当たるべきではないのか、という覚悟である。取り憑かれたように、しかし、できるだけゆっくりと読んでいる。今、一巻が終わったところ。
なにゆえこれを破格に評価する人がいるのか。その理由は人それぞれやもしらん。俺がこれに衝撃を受けたのは、そのスケールである。あまりつまびらかにするつもりはないが、次の二点。「生命はなぜほかの生命を奪ってのみ生きざるをえないのか」、そして「人間の自由意思とは何か」。前者の生命そのものの矛盾については、仏教的な入口から常々考えざるをえない問いかけであり、また後者も、たとえばカート・ヴォネガットやP.K.ディックを持ち出すまでもなく、SFの、すなわち人類の大いなる問題である。伝奇物という、一見閉じた領域からこれらを狙い撃つ。そこにしびれる、もちろん伝奇ロマンとしてしびれないわけがない。果たして狙い撃った先がどうなっているのかはまだまだわからぬ。わからぬが、この『妖星伝』、俺をとらえて放さぬ、傑作である。
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