練乳アイスバーを食べるための、たったひとつの冴えたやり方

goldhead2008-06-05

 明治乳業の練乳宇治金時アイスバーを食べようとする私は、幸福の中にありました。棒の先端に甘い甘い練乳が溜め込まれ、純白のミルク膜に包まれた中には、うっとりするような小豆、そしてグリーンの抹茶テイスト、冷たい氷の歯ごたえ、ハーモニー。想像するだけで身震いが起こります。
 しかし、どうやって食べましょう。最初の一口でとろけるような練乳ヘッドを片づけてしまっていいものでしょうか。まだ、氷たちとの巡り会いも済ませずに、口の中を練乳でベトベトにしてしまっていいのでしょうか……。
 私は、ヘッド部分を縦にせめました。円柱を輪切りにするのではなく、縦に刃を入れたわけです。おお、断面からとろりとろとろ流れ落ちようとする練乳。さらに縦に削ぎすすめて一口、今度は太古からの地層のごとく、古き生き物のごとく、緑色の氷にかこまれた小豆……。
 しかし、私が自我も他もなくこの神秘の光景に見入っていたその瞬間を、残酷な神は見逃しはしなかった! なんと、バランスを失った練乳頭は無残にももげて地面に落ち、足下をころころと転がるではないですか、私をあざ笑うかのように。ああ、倒れるわが子を即座に抱きかかえるように、私は練乳頭を拾い上げる。「しっかりしろ! まだ大丈夫!」。応援の声に応えてくれない練乳頭。衛生兵を呼ぶより前に、脚が動く。走って給湯室に飛び込む。流しの水に練乳頭をさらす。
 「少し小さくなるけど、大丈夫だから……」と、思った瞬間、次の悲劇が待っていました。片手に残りの棒を持っていたので、固定が不十分であったのです。哀れにも滑った手からこぼれ落ちる練乳頭。流しに吸い込まれていく練乳頭。私の得られたはずの甘味、快楽、去勢されたような虚脱。「神様、ちくしょう!」。
 だからあなた、練乳アイスバー、先端部分に練乳がたっぷり溜め込まれたものを食べるとき、何より先にくわえ込み、食いちぎりなさい。打算や計算、愚かな策を弄するのはやめなさい。欲望の赴くままに、甘美な部分をむさぼりなさい。流しに流れた練乳は二度と戻らない。私が世の中に伝えたいことは、まったくこの一事に尽きるとといっていい。