『20世紀少年』全巻/浦沢直樹

20世紀少年―本格科学冒険漫画 (1) (ビッグコミックス)
※ネタバレあっても知らないよ。
 週末、人の家の留守番をしたさい、そこにあった全巻(当然『21世紀少年』含む)を一気に通読した。深夜から読み始めて、気づいたら夜が明けていた。これだけ先が気になってしかたないような、そんな思いをするのも久しぶりだった。雑誌掲載時についてはまったく知らなかったが、長い休載などもあったらしいし、これはまあ単行本一気読みがよかったんじゃあないだろうか。というわけで、映画『20世紀少年』のヒロイン役が平愛梨さんに決定!なんていう話題とはまったく関係ないところで読む機会になったということ。
 それでもって、考察、謎解き的なことについては、もうネット上にさんざん出尽くしているようだし、別にあたらしい見解もないし、そういうことなのだろう。気になったのは、どの段階で二人目の“ともだち”が彼と決まっていたのかとか。最初からだろうか。ただ、コピーのコピーの話とか、万引きエピソードはもっと早い段階で出てきていたらな、とか。
 好きなシーン(順不同)
▽万丈目が信者の前で“ともだち”をトリックで吊す。傍らで一緒に吊し作業をしていた男まで「浮いている……」と信じ込む。これ、ここまでいかなきゃ信仰じゃねえんじゃねえかって。これこそが信じゃねえかって、そんなことを思った。むろん、この場合はネガティブなわけだけれども、あるいはあらゆる信仰の場において、てめえで吊したものを奇跡と見られる、そこまで行くところじゃねえのって。よくわからんが。
▼空飛ぶ円盤。あのリアリティのある絵で、これがぽっかり浮いているところの怖さ。あれはすごく好き。
▽最悪の双子が大槻教授風教授に、かつていじめっ子であったことを否定するシーン。
▼“ともだち”が復活の集会で「バハハーイ」って言うのを万丈目が聞いたところ。ヴァーチャルアトラクションののっぺっぼうも「バハハーイ」って言ってたっけ?
 好きなキャラ(順不同)
▽万丈目胤舟。こいつはかなりの悪事もしているはずだけれども、作者も気に入ってきたのか、最後は「さよなら万丈目」のタイトルで一話、そしてゆるされた感がある。というかこの話にゆるされない登場人物はいなかったかもしれない。贖罪が大きなテーマという気がする。神や人類への贖罪などではなく、もっと小さな、子供の頃の思い出の小さな棘。それに対する贖罪。自分の世界が全世界であったころの大罪。それがそのまま具現化してのしかかって、それにゆるしを乞い、ゆるされる、そんな話じゃないだろうか。
▼小泉響子。この子がいるといないとでは、雰囲気が違ったんじゃないだろうか。
▽サナエ。見た目が。
ナショナルキッドとハットリ君のお面。ハットリ君の方に意味があるように、ナショナルキッドの方に意味があるのかどうか、ちょっと思いつかない。ところで、21世紀の今の世ではパナソニックキッドに改名か。
 好きな要素(順不同)
▼超能力の描かれ方。いくらかの人間は本当に使うシーンがあったが、肝心の“ともだち”については? どうも、初代についてはわからんが、ひょっとしたら二代目の方にあったのではないか。クラスのスプーンを全部……というのも、初代の方は自分の仕業だと思いつつ、実は二代目の方では? しかし、初代の方についても、そうかと思わせるところもあって、万丈目も曲げてたり。そのあたりのぼかし方が、清田君的(万丈目とのエピソード自体、彼が下敷きだろう)でいい。
T.REX。タイトルにもなっているわけだけれども、俺はどうもグラム・ロック好きであって、その元祖的存在と見ていたので、「放送室を占拠してロックを流す」題材としてどうかとも思った……が、ガーッガ、ガガ、ガーガ、ガッガと、たしかに「何かを変える」ロックかしらん。ちなみに、俺の一番好きな曲は「Children of the revolution」なんだけれども、これもちょっとこの漫画に合うかもしらん。まくら元に置いてあったTレックスのアルバム、あれはフクベエのもの? フクベエはあんまり興味なさそう。となると、二代目か、元の住人の偶然か? それとも、あれも二代目? つーか、入れ替わりを最初から行っていたのか、“ともだち”。
▼万丈目のところにも書いたけど、ミステリというよりは贖罪の物語。それもヴァーチャルという設定ながら、タイムマシン的。そのあたり、いろいろなメカやガジェットを除いても、実にSFというところ。バーチャルアトラクションがちょっと都合良すぎる存在という気もするが、まあいいか。
▽「20世紀」というわりには、1900年代後半の一時期。むしろ、昭和の子という印象もあるが(それでも範囲は広いが)、昭和はまずいか。日本における世界(国家)征服ものとなると、巧妙に天皇を避けねばならん。

……というわけで、まあともかく少しの不満点もあるけれども、これが傑作であることに変わりはない。繰り返しめくりたいところだが、残念ながら人の家のもの。まあ、それもいい。で、映画の方はどうなんね。脚本に浦沢直樹長崎尚志が入ってるから安心かな。ひょっとしたら見に行きたい。