横浜市〜鎌倉市〜ラブプラス〜ラブマイナス

 ……凛子、蝶だよ凛子。甲虫が好きなんだっけ? 蝶はどう?

 蜂の巣だ、凛子。このあたりに詳しいおっさんの話によると、昨日、役所が処置したんだって。しかし、ゴルフの手袋の中にゲジゲジが入っていた話なんて聞かせるなよな。

 切通かな、凛子。たぶん、鎌倉時代とか、もっと昔に切り開かれたものだろうね。昔の人はすごいよね、どうやってここまで重機を入れたんだろう?

 なんかパンキッシュじゃないだろうか、凛子。ときには、情報が過多だって、読みにくかったって、いいんだよ、たぶん。とくに山の中では、こんなハイキングコースですら、さみしいからね。

 ネムノキの花が咲いているね、凛子。茶屋の人が植えたものなのかな?

 ああ、クモだよ、クモ。クモがアリを食べているよ、凛子。なんかこいつ、エヴァに出てきたような気がする。

 ほら、凛子、ここが鎌倉市内で一番高い場所さ。ついさっき、横浜市栄区最高地点があったけれど、横浜市の最高地点ってのはどこなんだろうね? ランドマークタワー? 建物はなしだよ。こたえはこちらで紹介されていたよ(外部リンク)。

 あ、凛子! 猫、猫、ネコ!

 ネコはいいよね、ネコ。ネコリンコ、ネコリンコ……、あれ、凛子? どこ?

 ……気のせいだ。そうだ、僕も猫には目がないんだ。それで、僕は、「猫好きの自分は犬タイプなのではないか。猫を好きになるのは猫になりたい犬なんじゃないか」なんて思ったんだけれど、どう思う? でも、それだと、猫が好きな凛子が犬タイプなのかもしれないってことになるよね? ひょっとして、どっかで相手に尽くしたいなんてところがあるのかな?

 凛子、でかい樹だ、凛子。

 これはなんだろね、凛子。

 たぶんこれは、信仰なんだよ、凛子。バクーニンは「神と国家」で「相互的で同等な必要を表現する真実の現実的な愛は、平等者のあいだでしかありえないのだ。下級な者に対する上級者の愛とは、圧制であり、抑圧であり、軽蔑である。それは利己主義であり、傲慢であり、虚栄であって、これらは、他者の屈従に基礎をおく、権勢の感情の中で凱歌をあげているのである。劣った者が上位の者に対して抱く愛、それは屈辱であり、恐怖であり、自分の主人の顔をうかがう奴隷の期待なのだ。これこそが、あの人間に対する神の愛や、また、神に対する人間の愛と言われるものの性質なのだ」って言ってるけど、凛子はどう思う?

 凛子、マルフクだよ凛子。僕に信仰はないんだ。でも、僕はマルフク主義者なんだよ

 こっち側はなんか縛られて固定されているね、凛子。でも、マルフク主義には圧制も抑圧もないんだよ。僕はマルフクに対して自由だし、マルフクは僕のことなんかこれっぽっちも気にかけていないのさ。

 シルクロード研究所だってさ、凛子。大きなお屋敷だね。向こうには個人名の表札があって、H山さんって書いてあったよ。

 凛子、見てごらん、江戸の人だ。なんか、ケータイの下の方に白い塗りが入ってるね。これ作ったマヌケは、素材集からスキャンしたあと、マスクの処理かなんかがいい加減だったんだよ、たぶん。

 僕の願い事はもちろん……「お金に不自由しませんように」だよ。ごめん、凛子のことは願えないな。「凛」って字が難しくて書けないんだ。

 凛子、ごらん、三次元の人々は、生、老、病、死、怨憎会苦、愛別離苦、求不得苦、五陰盛苦の四苦八苦に四苦八苦しているんだよ。しょうもなくちっぽけで、どうしようもない連中だよ。……あれ、凛子だって家族のことで悩んでいたよね? うん、なんだろう? 次元? ……うん、気のせいかな。それに、ここは神社なんだ。

 見て見て! 葉っぱの影がまるで梵字みたいだ、凛子。でも、やっぱりここは神社なんだけどね。

 ほら、死んで放置されたままのアジサイの亡骸が、まるでドライフラワーみたいになってる、凛子。

 凛子、でかい樹だ。凛子、でかいゴキブリだ。

 凛子、指のように枝分かれしている。

 鎌倉宮前の、例の店で休もう。前に来たときはすごかったよね。混雑時で、店のキャパを完全に圧倒していて、目の前に入ってきた客を、透明人間がいるかのように無視するあの若い店員、すごかったもんね。でも、今日は空いているよ。おばあさんのゆっくりした対応を見ていると、こういうペースの店なんだろうね。ほら、先客の大正系ガール、僕のおばあさんが話してるのとそっくりだよ。……あれ、けど、ここに前来たのは、凛子と僕が会う、ずっと前だったような……???

 
 
目の前の女は、誰だ?
 
 

 でも、そんなことはどうでもいいんだ。

 近ごろの「きざはし」に焦がしきなこがついていることだって、ぜんぜん知らなかったんだしさ。

〜おしまい(人間として)〜

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