
- 作者: 白川静
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「この平凡社って変な名前だよね。なんでわざわざ‘平凡’なんてつけるわけ?」
すると父は、「平凡に生きるということは、これがなかなかむずかしいことなのである。わしだって……」などと、波瀾万丈なのかどうか、自らの半生について語り始めたのだった。
……ええ、ええ、朝日新聞社の最終面接まで行ったけど、当日の朝まで徹夜で麻雀してたんだよね。それで、面接で、「君は、学生運動をやっていたらしいけれども、それはどんなスポーツなのかね?」って言われたんでしょ。で、上智大学なんて、それまでたいした学校じゃなかったのに、あんまり運動やってなかったから、なんかそれで急に大きな顔をしはじめた、と。頭のいいまともなやつは学生運動をやっていたから、今のマスコミにいる連中はカスばかりだ、と。
しかしながら、俺はぼんやりとこう考えていた。「このアル中寸前の人格破綻者でも、一応は結婚して、子供も二人作っている。たぶん、普通に生きていれば、そのように結婚できるようなものなのだろう。そうだ、俺は平凡に生きよう。大学を出て、大きな会社に勤めて、この父のように自分で会社を始めようなどと思うまい」などと。もっとも、そのころは自分の対人コミュニケーション能力の低さとか、自分がチビのままだとか、そんなこと想像だにしていなかったのだけれどもね。
それがまあ、ごらんの有様だよ、と。なんとなく普通に行くだろうと生きてきて、それなりの大学入ったまではよかったね。成功だね。俺がどこの大学行くかという話を知った、俺をきらいなやつが、わざわざ「おまえは人生の成功者だな! よかったな」などと憎々しげに言ってくるくらいだったからな。まあ、あいつの期待を裏切ってやって、俺はひそかによろこんでいるところもあるのだけれどもね。
まあ、なんだ、だからといって、なんだ。よくわからないが、どうも世間の方も、普通とか平凡という、かつてのそれがガラガラ音を立てて崩れてくれているようで、俺にとっては助かっているのかもしれない。いや、べつに誰が助けてくれるわけではないけれども。というか、小さいころの俺の不安そのままに、家が崩壊したのだけれどもね。
そんなわけで、なんというか、俺は「平凡社」を見るたびに、俺の生きられなかった「平凡」の人生を思う。昭和のころ、おそらくは今よりは当たり前だったかもしれない「平凡」を。ただ、べつに、なんというか、だからといって、俺と同年代の人間が、普通に結婚して、普通に子供もいたりして、そんな現実は現実であって、日本が俺の人生ほど崩壊しているわけでもないようなんだけれどもね。
1914 下中弥三郎が自著の小百科事典「や、此は便利だ」の販売のため創立。
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