ホワイト、グレー、ブラック、スパイダー&オクトパス

タコ部屋

 英国籍の英会話講師リンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=の遺体を遺棄した容疑で逮捕された市橋達也容疑者(30)が逃亡中に住み込み勤務していたと公開写真で気付き、警察に通報した建設会社が、取引先から相次いで契約を打ち切られていることが13日分かった。
 建設会社関係者によると「社員の身元もきちんと調べない会社とは取引できない」と契約解除を通告される例が続いた。この関係者は「通報すれば、取引停止もあるだろうと事前に話し合った。だが社会人の義務として通報した」と打ち明ける。

http://www.47news.jp/CN/200911/CN2009111301000026.html

 「建設会社」というと、たぶん実態にそぐわないんだろうと思う。

飯場でタコ部屋に入る者は身元を一切問われないという不文律がある。
そして働いている者同士も身元を詮索しない。
タコ部屋とはタコツボに一匹づつタコが入るのに準えられて付けられた名称だと思うが、そのように流浪人が身を寄せるには格好の場だった。
その流浪人とは当然犯罪者も含めての話だ。
時、2009年。
こんな明るい時代にあの飯場に似たものがまだ世間にあはるのだなぁと、テレビに映し出された市橋達也が寄宿していたという4畳半くらいの寮の個室を見て思った。
当然昔とは違って小ぎれいな部屋だが、その部屋を見て思ったことは、かつての飯場やタコ部屋にあった人の身元を問わない、他者に干渉しないという習俗のようなものが多少とも残っていたから彼のようなものが1年も暮らすことが出来たのではないかということである。

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 まあ、こんな感じだろう。もちろん、俺はタコ部屋暮らしなど幸いにしてしたことはないが、知識としては知っている。タコ部屋ものの小説やルポルタージュなど読んだことがある、くらいのことだ(吉村昭だったかな?)。
 というわけで、なんというのか、まあこういうものがある。こういう仕組みというか、なんというか、身元は問わないけど、薄給重労働、みたいな「会社」があって、またそれを使う会社があって、たぶんそれはどっかの下請けや孫請けで、みたいなところがあって、なんというのか、それはそれとして、見て見ぬふりというか、なあなあというか、グレーでやってきたんだろうと。
 でも、いざこうやって、特異な例ではあるが、光が当たってしまうと、こんな処置になる。仕事もたぶん少ないご時世、切られてしまう。おそらくは、労働に関わる法に照らせば、アウトということにもなるのだろう。でもだ、今まで、それを承知で使い倒しておいて、いったいなんなんだか、釈然としない話だ。

網とタコ

 でもって、このタコ部屋的な、飯場的な存在のことだ。たしかに、犯罪逃亡者が身を隠せる、などという、そういう場になりやすいであろうことは予想がつく。だが、訳あって流浪せざるをえない人ってのも、またたくさんいるだろう。生きていれば、なんか深刻なトラブルがあったり、でかい借金から逃げたりとか、いろいろと。そういう立場になれば、衣食住をなんとかしのげるタコ部屋的なところは、ありがたい……のではないか。
 もちろん、なんつーのか、貧困者を搾取するというような、困った人間から搾り取る側面というのはあるだろうし、たとえば、サラ金から借りられなくなった人にとっての闇金のような、そんなところもある。でも、しかし、なんというのか、このグレーによって、ブラック、たとえば、本当の犯罪者になるとか、犯罪組織に加わるとか、犯罪行為に加担するとか、やけになって死ぬとか殺すとか、そこまで落ちなくて済んでいる面もあるんじゃねえのというような、気もしてしまう。
 しかし、だからといって、積極的に「グレーが必要」と言えるかどうかというと、たぶん、今の段階では言うべきじゃないようにも思える。人が、ホワイトな生活から落ちたときに、まずなんつーのか、ホワイトな支援、公的な支援っつーか、そこがしっかりしてるべきだろうって。まあ、犯罪者はともかくとして、ちょっと本人がうしろめたいようなところのあるところだったり、圧倒的な暴力とかから逃げる人とかを、うまいことどうにか(……とかいう物言いが無責任なことは自覚しています)、手助けするというか、駆け込み寺というか、さ。それで、そのあたりのセーフティネットが貼られた上で、またいろいろの個別の事情ですべり落ちるところがあって、でも、ブラックまで落ちないで、そこで救うタコ壺のシェルターがあるならば、その辺のグレーを見て見ぬふりしましょうと、そこで初めて言えるんじゃねえかと。
 というわけで、この件は、「建設会社」を切った関係企業が間違いなく面白くねえ連中だというのは確かだけど、「建設会社」自体にもグレーないしブラックな面もあって、しかしまあそれが存在する理由にはなんか社会の至らないところもあって、なんというか、難しいよね。おしまい。