地を見る人

エス・レオナルドさん57歳は、ニューヨーク・マンハッタンで10年に渡ってチケット売り場で換金を続け、その収入はトータルにすると50万ドル(約4400万円)を超えるそうです。

外れ馬券を拾い集めて年収400万円、10年で4400万円を稼いでいる男性:らばQ

 よき競馬のオッサンの記事である。まず、“イエス・レオナルド”という名前がいい。大物感がある。これも、競馬における怪人の一例だろう。たぶん、オンライン購入などが増えていき、ますます競馬場が明るくなるにつれ、こういう人たちは姿を消していくだろう。
 ただ、俺は、地見屋にあまりいい印象を抱いていない面もある。まだ、桜木町の場外がそれほど機械化されていなかったころだけれども、払い戻し機を占拠して、ひたすら拾った馬券を投入していくわけ。そうすると、「この勝ち馬投票券は的中していないか、払い戻しが確定しておりません。もう一度ご確認してください」みたいな機械音声が連呼するわけ。あんまり聴きたくない内容の音声だし、それがリピートされるのはちょっとうっとうしい。
 そして、なんというのだろうか、「それでも地見のプロか」みたいな、そんな思いがあった。プロならば、的中券のみ拾え、と。……と、今の今思ったけれども、本当のプロはあんな見苦しい真似をしないのかもしれない。高度な地味屋は馬券生活者と区別がつかない。まあ、ただ、ああいう見苦しさも競馬のうちであって、俺だって地面にはずれ馬券落ちていたら、いちおうさっきのレースの番号と頭の中で比べたりするさ。
 しかし、競馬などで地見が成立するのは、はずれ券をそこらに捨てるからだ。みんながみんなはずれ券を持ち帰っていたら、成り立ちようがない。ただ、俺は競馬をはじめてからしばらく、はずれ券を捨てなかった。「いつか足し算して、競馬でいくら負けたか計算してやろう」などと思っていた面もあるし、「記念だし」という面もある。ただ、さすがに精神的にもスペース的にもじゃまになってきて、あるときふと「財布にはずれ馬券が入っていると、ツキが逃げるような気がする!」というわけのわからない衝動に襲われ、それ以来捨てるようになった。まあ、名前入りの馬券は取ってあったりもするのだけれども。
 ただ、地見屋にとって俺の捨て方は優しくなかったな。かならずびりびりに破いて、ゴミ箱に捨てるのだ。まあそこらにポイ捨てしてもそれほど咎められる世界ではないけれども、わざわざそんなことをする理由はあった。こう、ぽいっとっ放り捨てるより、びりびりに破くという行為をするとなると、どうも貧乏性と小心さが出てきて、「買い間違えて実は当たったりしていないよな」と目を皿にして確認するからだ。もっとも、俺は馬券を当てるのは下手だが、馬券を買うのは上手らしく、買い間違えの経験はない。まったく。
 まあ、そんなわけで、今や俺も紙の馬券を買わなくなってしまったし、場外馬券売り場にも競馬場にも長いこと足を運んでいない。俺が競馬場のあやしい面々を愛するようなことをいっても、だいいちに俺がそれを見捨てている面もあって、それにひっかかりを覚えないわけではないのだが、さて。

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