ソヴェートロシアでは重力があなたを落下する! 〜ボリショイ動物サーカス横浜公演の感想〜


 私は生まれてから一度もサーカスというものを見たことがなかった。サーカスの熊も、空中ブランコも、ピエロも、すべてその他の何かを通して見たものだった。私は今年で31歳になる。私にいま必要な経験は、サーカスを見ること以外の何でもなかった。
 ボリショイ・サーカス。ソヴェートの誇る偉大なるサーカス団。私は私の初のサーカス体験を、おおよそこの世で考えられうる最高のサーカス団の公演によって実現しようとした。私は多くの人民、サーカスの公演を待ち望んでいた人民とともにチケット購入の列に並んだのだった。

 サーカスは私を魅了した。それ以外になんと表現すればよいかわからない。極限まで鍛え上げられた若者たちの肉体は、おおよそ重力すら無視するかのようにわれわれの頭上高くに上り詰めたかと思えば、流線型の飛行機のように自由に飛び回った。不屈の精神と科学的な鍛錬のもたらす新芸術!
 また、老練の調教師は、よく訓練されたネコやクマ、そしてライオンやトラとともに演目をこなしきった。そう、動物たちも新ソヴェートの躍進を支える労働芸術者にほかならなかった。労働者の生活状態、社会的感情などをサーカスという芸術の内にいきいきと再現し、民衆の階級的自覚を社会主義社会の完成に向って一歩押し進めようとする、重大な階級的役割を自覚していた。

 そう、サーカスの舞台にあたるスポットライトの栄光とその影は、われわれ民衆の生そのものを写している。それゆえに、わえわれとステージとに真の連帯が生まれ、新社会建設への無限の活力となる。これは真に社会的リアリズムによって裏打ちされたプロレタリアートの芸術であって、資本主義的な享楽とは一線を画するものである証拠である。
 ピエロによって演じられた、こんな一幕があった。二人のピエロは、それぞれにナイキとアディダスという資本主義の象徴とも言うべきロゴの入ったスポーツウェアを着て出てくる。そして彼らが、50kgと100kgと書かれた重石をそれぞれにどこまで遠くまで投げられるか、という寸劇を披露するのである。これは見事な風刺であった。資本主義国支配階級への攻撃であると同時に、国内に残されたブルジョア残存物への打撃である。

 しかし、忘れてはならないのは、そのような風刺的精神は、われわれの中に巣食う反革命官僚主義にも容赦なく突き刺さるということだ。われわれは、舞台の上のイヌに、それを見出さなくてはならぬ。イヌのとぼけた演技に笑うその中に見つけなくてはならぬ。そう、笑いのうちに現れる、その不断なる階級的自己批判こそが、プロレタリアート的成功を結実させるのだ。そして、それは同時に世界の歴史にとっての成功となる、第一歩なのである。

 ……われわれ民衆は、横浜革命文化人民体育館をあとにし、またそれぞれの生活の場に戻っていく。そして、ある若者はコムソモールに、ある工場労働者はそのクルジョークに、今日の日の体験を持ち帰るだろう。さらなる文化的自発性が生まれ、文化・芸術という側面からも世界の労働階級解放運動をさらに躍進させていくだろう。同時に、その文化的価値を生み出す背景にある社会体制への価値を深く認識し、ますます社会主義的生産の技術を高めようとするだろう。五ヵ年計画を四年で! われわれの鎚の音はいきいきとした生活と文化とともにあって、鳴り止むことを知らない!

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