「最後には祈りのような清々しささえもたらす」夏目房之介、絶賛! 心が引き裂かれる“音”を、聴け。 ささやかだけれど、幸せな家庭を築いていた漫画家に、突如訪れた、悲劇。妻の突然の死。 最愛の人との最後の日々を、繊細で果敢に描き尽くす。 ギャグ漫画界の鬼才が挑んだ渾身の新境地、愛と悲しみに満ちた、ドキュメントコミック。
はじめは「漫画で泣いている」と打ってみたが、しっくりこない。もっとそのもののような感じがするからである。「漫画で」ではない。むしろ、「漫画が泣いている」。これがしっくりくる。いうまでもないが、「ジャンルが情けなくて泣いている」という否定的な表現ではない。文字通り漫画が泣いている。その証拠が表紙だ。触ってみてもらいたい。そういうわけで、この漫画は「上野顕太郎が漫画で泣いている」のでもなく「上野顕太郎の漫画が泣いている」、いや、「上野顕太郎が漫画が泣いている」というのが適当だろう。文法的に不適当だが。
この漫画は、ひどくぎこちないところがある。決してずばっと決めてくるものではない。スパッと切れるものでもない。あれもこれも、すべてを詰めこもうとしている。なにか不格好なところがある。そのものを出してきたというところがある。グッとかぎ爪を食い込まされる感じがある。俺も20年上の女と10年くらいつきあっていて、喪失について想像しないことはない。できることならば、先に死にたいものだと思う。そのようなことを思う。作者がいろいろの作品のシチュエーションを想起するように、俺もいつか『さよならもいわずに』を思い出すことがあるだろうか。そんな想像をしている時点で、俺もある種のろくでない人間のように感じる。
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