不動産屋がアパートの退居費用で俺を騙して敷金以上の金を巻き上げようとする

 おれはわりとながくアパートに住んでいて、わりとながく住んでしまった以上、いろいろのくたびれなどもあって敷金は返ってこないものとぼんやり考えていた。いざ、退居が現実的な話になってちょっと調べてみたら、世の中には自然損耗や減価償却やそういったものがあって、自然に劣化して古くなるものを原状回復と称して借主が新品にグレードアップしてやる必要などないのだという話が出てきた。わりとながく住むということは、わりとながくクロスなりカーペットなりも古くなるのであって、わりと古いものの安くなってしまったものに対しては、わりと古くなってしまった分の価値のみ支払えばいいというような話だった。おれはわりと古くなってしまった以上、全部新品になるのだから敷金など返ってこないものとぼんやり思っていたが、かえってわりと古くなってしまった以上、敷金が全額とはいかないかもしれないが返ってくるんじゃないかと思うようになった。国だとかそういうところも、そういったものについてはそのようなものであるというようなガイドラインを作っていたりして、わりとそのようなものに思えてきたし、けっこうそういうものであるというところが世間の流れのようなものになっているようにも感じた。
 しかいながら、上記ツイート内に現れた不動産屋の使いの内装屋というか便利屋のおっさんの話では、おれの隣の隣におれ以上長く住んでいたやつ(10年。静かなのでひじょうに気に入っていたが、なんらかの事情があって出ていくことになったという)ですら、クロス総張替え費を払って行ったという。それが当たり前だという態度だった。いろいろのやり取りは上記ツイートに書いたとおりだったが、まったくそのようなものだった。内装業者である彼は、自然損耗の範囲内で古くなったものをまったく新品に取り替えることについて、特記事項すらないのにまったく当たり前なのではないかというふうであった。彼は個々の契約や法律はわからないといいながら、そういうふうであって、まったくこの物件に関わる範囲についてはそのように事を運ぶのが当たり前のようであった。
 おれは頭がおかしいので、おれが間違っているのかもしれない。ただ、おれは頭はおかしいけれども、あるていど文章を読む力はあるし、ものを考えることもできるように思う。思い上がりかも知れないが、あるていどの筋道だった考え方もできると思うし、キチガイかもしれないがひどく馬鹿なわけでもないと思う。プリントアウトしたガイドラインを会社の人間に見せて、自分の考えを説明して、そう間違っていないのではないかという感触も得た。
 そして、おれは頭がおかしいせいか、異常なほど猜疑心が強く、少しでも利害が対立するようだと、おおげさでなく殺すか殺されるかのところまで突き詰めて考えてしまう癖があって、まったくこの場合も最大限不動産屋がおれを陥れて何十万円も騙し取りにくるんじゃないかという想定があって、それに対して理論武装しなくては、おれは金を払えないし不動産屋を殺すことになるかもしれないと思って、おれはよくガイドラインを読んだり、いろいろのものを読んだりもした。ただ、おれはじっくりと勉強に取り組むという能力がかんぜんに欠如しているので、まったく学生時代と同じく一夜漬けか二夜干しといったところだった。
 おれのそのような取り乱しぶり、不安、狼狽、敵愾心の発露を見て、まわりの人間は「そこまで心配することじゃない」というようなこを言うし、おれはおれの頭がおかしいのもわかっているのでそうかもしれないと思ったが、結果として平然と敷金以上の支払いを求める方に持って行こうとしたのだったのだから、この社会の不動産屋というのはまったくおれのような人間のもつ異常な猜疑心に値するだけ存在であって、恐ろしく、醜く、ゴミクズのような存在であって、相手が無知で馬鹿で気弱な情弱とみなせば、平然と当たり前のような顔をして不当に金を巻き上げようとするのだし、おれが気弱で無知で精神の健全な若者だったりすればまったく簡単に金の支払いに応じただろうし、その結果として相手が死ぬところまで追い込んでも平気なのだろう。それが商売なのだろうし、取れるところから取る、それが資本主義とかいうものなのかもしれないし、おれの異常な猜疑心や恐怖はまったくふつうのことであるかもしれない。
 まったくこの世のこの社会は馬鹿で無知で弱気な情弱だとみなせば平然と金を騙しといってへいちゃらな人間がウロウロとしているのだし、おおよその人間はそのような人殺しから殺されないようにしなければいけないのだし、一方で、世界最高の物品もサービスも与えられないのに客から金を巻き上げる必要もあって、やはり殺される覚悟で殺さなければいけないし、その割にはみな生活に苦しくてひいひい言っていて、この地獄がいつまで続くのかとそんなことばかり考えている。高めにふっかけておいてうまくいったらしめしめと思っている一方で、入札となると叩き合いの殺し合いをして、この地獄がいつまで続くのかとか、そんなことばかり考えている。
 まったくこの世はおれの猜疑心のとおりであって、おれの頭はおかしいのだろうけれども、世間もそれ相応におかしいのであって、相手を見て弱いと見えれば不動産屋は平気で嘘をついて金をだまし取ろうとするし、それに対抗するには頭がおかしい人間の猜疑心と敵愾心が必要とされるのであって、はたしておれはおれが他罰的に人を殺すよりはおれが自罰的に自分で死ぬほうがましなのだろうとは思うが、おれ以外にもいくらかの人間というのはそのような地獄の中にあって、だれがおれを殺すのか目をぎょろぎょろさせて警戒し、殺される前に殺すか、それとも自殺するか、その二つの秤の上を綱渡りしているのであって、ときに死刑願望がその一挙両得なのではないかという気すらしている。

……クソボロアパートなので、マンションなんてたいそうなものじゃないし、金額も小さいが似たようなもんだろ。