チェコの手袋





 この冬がはじまってしばらくしたころ、ろくに使える手袋がないことに気づいた。そこでおれはチェコ軍のデッドストックだかという革の手袋を買ったのだった。
 おれは動物愛護団体がなんと言おうと革製品が好きだ。冬にはお気に入りの羊革のコート2着を順繰りに着たりしている。そのコートはいずれもパキスタン製で、そのブランドはもうなくなってしまったのだった。
 まあ、ともかくなんとなく革の手袋が欲しくなったのだったが、良いもの高いし、高いものは買えないのだった。そこでふと思いついたのが、ミリタリー品のことだった。「旧東ドイツ軍デッドストック」のようなものはわりあいお手頃価格なので、中学生のころよく買ったりしていたものだった。今でも「旧東ドイツ軍デッドストック」がたくさん売られているので、中国かどこかで「旧東ドイツ軍デッドストック」工場があるのかもしれない。まあその後も、たまに思い出したようにちょぼちょぼ買ったりもしていたのだった。
 そういうわけで、なんとなく行きついたのがなぜかチェコ軍の革手袋だった。すばらしい楽天市場で買ったのだった。
 やってきたそれは、あまりにも武骨というか、武骨という言葉すら上品に感じられる代物だった。あまりにも獣感丸出しだった。昔、『こち亀』に革靴を煮込んだら食べられるんじゃないかというようなネタがあったと思うが、これなどは煮込まずともそのまま何らかの伝統的な手法で作られたソーセージに見えてしまうくらいだった。サイトの注意書きに「きつい」とあったが、予想以上のきつさで、おまけにえらく硬かった。どんな意図でこんな風に縫われているのかもわからなかった。赤い塗料か、あるいは獣の血のようななにかがへばりついてとれない。内側には申し訳ていどのボアがついているが、この冬の寒風に対してはものの役に立たず、指先はすっかり冷え切ってしまうのだった。
 ……などと書いた不満のすべて、おれは大好きだ。
 だが、それがいい、のだ。こんなもの、ユニクロでもイオンでもイトーヨーカドーでも買えはしない。そして、これがいつの時代のチェコ軍の、どんな連中が使う目的で作られたかわからない。防寒目的かどうかもあやしい。まあ、添付されていたタグはチェコ語だったので(Google翻訳でたしかめた)、チェコ(軍)用なのはたしかだろうが、中国製か北朝鮮製か、いったいどこで作られたのかもわからない。ひょっとしたら、チェコ軍風に作ろう、という品かもしれない(そんな需要があるかしらない)。
 よくわからないが、それがおれの手元にあることがおもしろくていい。どっかのチェコのやつが、「Ta rukavice k ničemu vůbec!」とか言ってるかもしらん。それはなにか悪くないことのように思えるのだ。
 ……などというところを、たとえば女の人に話したところでまったくわかってもらえなかった。だいたいミリタリー品は「値段のわりに質がいいかも」と一瞬期待をいだかせるものだが、実際のところそうでないものが多いような気がするるのは確かだが(おれが安物しか買わないせいかもしれない)、それもふくめて面白いじゃないかと。たぶん、男も女もなく、わからん人にはわからんと思う。ただ、どちらかというとおれは好きな方であって、とくに意味もないけれどもここに表明しておく。

参考______________________
↓おれが買ったのはもう売り切れていた。下の商品の質はわからないが、おれの買ったのより高い。
[rakuten:auc-waiper:10003003:detail]
[rakuten:donzuba:10162144:detail]
↓たまたまチェコ軍放出品のバッグがiPad収納にぴったりみたいなのをAmazonで売ってたりするのもおもしろい。