アナーキー・イン・ザ・ババア

 おれが巻き込まれた交通事故の検分が終わって、おれはおれで後輪の完全に動かなくなった自転車をどこの自転車屋に持っていくのか、そもそも指も足もケツも痛えんだけどって途方に暮れてたときのことなんだけど、まあとりあえず近くにあるような気がするところまで引きずっていくかって思って、まだ警察官も五、六人後片づけしてるところに、「それじゃどうもお世話さまで」って挨拶して行こうとしたわけよ。したらさ、おれの事故の原因になった横断歩道のね、赤々と赤信号の中をね、一人のババアが堂々と渡ってくるのよ。紅海を割って歩くモーセのごとき貫禄で、四車線横切ってくんの。制服の警察官が五、六人こっちにいるのに、堂々と歩いて渡ってくるの。「えー?」て思って、ちょっと様子見てたら、案の定、五、六人の警察官による豪華な説教タイムが始まったんだけど、ババアは萎縮するどころか、「この信号ぜんぜんかわらないじゃない!」って逆ギレスタートして、警察官が、「いや、押しボタン信号なんで、ボタンを押せば変わりますよ」って言うのに、「押しても変わらない!」の一本槍で無双スタートみたいな感じで、おれは信号無視の馬鹿のせいで自転車がぶっ壊れて左半身が嫌な感じに痛いのに、くそったれ、ババア、やるだけやれ、好きなだけブチ切れろ、とか思ってしまったのだった。おれは、人間とは矛盾した存在なんだなぁと思った。おしまい。