プロレス100大事件というのもあるのか。
コンビニのおれは「アサヒ芸能」を片手にレジに向かう。颯爽とレジに向かう。
「420円になります。袋はよろしいですか」と店員。
「袋いいです」とおれ。
おれはアサヒ芸能が420円であることを知らなかった。おれは500円玉をトレイに置いた。
ふと横のレジを見た。クマのように大きな白人の女が、片足をその場に残し、開いたコンパスのような姿勢でレジの向かいの棚から100円ライターを取るのを見た。煙草を買うのに、ライターが無いのに気づいたのだろう。自分の会計順を守りたかったのだろう。
おれはTimbuk2のメッセンジャーバッグにアサヒ芸能を入れた。だれからだれへのメッセージをおれは運ぶのだろう。
駐輪場に戻って、おれは自転車を出した。
さっきの女が中華街入口の門にもたれかかって煙草を吸っていた。煙草を吸いながら携帯に耳を傾けていた。なにごとかしゃべるかと少し気になったが、一言も発さなかった。ただ煙草をふかすだけだった。
通りすぎて信号待ちのおれは、クマのように大きな白人の女のことを考えた。きっとロシアかカナダからこの日本に来たのだろうと思う。彼女にはこの国が小さすぎるのかもしれない。彼女にはこの国の冬は暖かいのかもしれない。クマのような大きく、強そうな女。
信号が青にかわる。ペダルに力を入れる。おれにはもう風が冷たい。
帰って餌を食ったあと、「アサヒ芸能」を読む。何年かぶりに「アサヒ芸能」を読む。あるいは、生まれてはじめてかもしれない。映画『神戸国際ギャング』を読もうかと思う。
日本シリーズ、サヨナラホームラン。おれはソフトバンクにも阪神にも思い入れはない。思い入れはないが、秋山監督の表情が気になってしかたない。なにかひどく疲弊している。疲弊している秋山をあまり見たいとは思わない。
秋山の一万分の一くらいの存在であるすべてが疲弊しているおれは薬を飲んで寝てしまう。