うすよごれた地上の現実がいやになったら宇宙に飛び出そう!
宇宙飛行士 オモン・ラー
子供の頃から月にあこがれて宇宙飛行士になった
ソ連の若者オモンに下された命令は、
帰ることのできない月への特攻飛行!
アメリカのアポロが着陸したのが月の表なら、
ソ連のオモンは月の裏側をめざす!
宇宙開発の競争なんてどうせ人間の妄想の産物にすぎないのさ!?
だからロケットで月に行った英雄はいまも必死に自転車をこぎつづけてる!
ロシアのベストセラー作家ペレーヴィンが描く地上のスペース・ファンタジー。
サヴィンコフの『蒼ざめた馬』を探して本棚を見ていて、ふと目に入った一冊。はっきり言ってサヴィンコフは『テロリスト群像』も読み始めてて、エヴノ・アゼフ関連2冊に秘密警察もの1冊、もうプレーヴェが殺されるのも読みあきた感じもあって、たまにはプレーヴェが馬車じゃなくて皇帝戦車レベデンコとかで出てきてテロリストどもを一蹴するとかいう展開があってもいいんじゃないかと思うが、どうもプレーヴェにはその気力もないらしい。がんばれプレーヴェ。
それで、「オモン・ラー」である。なんかオモロそうなタイトルだと思って手をとってみれば、上のような紹介文。おれはソヴェート・ロシアのSFも読んだことないし、そもそもロシア文学とかいうのを読んだといえばドストエフスキーの『悪霊』だけじゃないか? ということもあって、とりあえずボリス・ヴィクトロヴィチを差し置いてwikipedia:ヴィクトル・ペレーヴィンを選んでみたというわけ。
でもって、なんというのか、上の紹介文を読んでみて、僭越ながらなんか「自転車特攻脳の恐怖」というか、なんというのか、その、おれの……世界観といったらいいのか、妄想世界としっくりくるところがあるなと思ってしまって。この本知る前に、おれ、こんなの垂れ流した。
そんでそうか、ロシアでもそういうこと考えてるやついるんだ、って思って。アメリカのように自動化できないから、切り離されるロケットも有人操作、探索機を自動で走らせることもできないから月の裏側でペダルを漕ぎ、帰る方法も用意されてない。
……と、それでいて、なにかこうソヴェートの体制を茶化さずにはおられない感じとか、薬物による輪廻検査によって描かれる人類史妄想であるとか、悪くない。そして、なにより悪くないのは、ソヴィエト人の持つ宇宙精神というか、哲学というか、なにかわからない魂のありよう、そこんところが、これがあまり茶化されていないような、少なくともいくらかそういう印象を受けたんだよ。嘘の真というかなんというか。
それでまあ、さらに……まあいいや、そういうわけで、さらにある種の仕掛けがあったりして、なかなかいいんじゃねえかと思った。映画にするんなら、『月に囚われた男』(スマートな短編SFの読後感〜『月に囚われた男』〜 - 関内関外日記(跡地)みたいなテイストでって、まあ、その感想文に書いてあるスマートな短編SFにちょっと毒の入った具合の、わりかし好みの本でした、『オモン・ラー』。ヴィクトル・ペレーヴィンはほかもあたってみる。おしまい。