- 作者: 野溝七生子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2000/02/10
- メディア: 文庫
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夕暮がだんだん迫って来た。
白い厚みのある花片と芳烈な香を持った繊細な小枝を見上げて子供は立っていた。
透明な空の下に静かさが一ぱい充ちていて、街道を行く遠くの人声までききとれるのであった。
大正十三年に書かれた女性作家による自伝的小説、だ。主人公の阿字子は幼いころより「毎日本を読んだ。毎日本を読んだ。」というくらい(大切なことなので二回言いました……ってそうなんだもの)に本の、小説の世界にのめり込み、西洋の文学や希臘神話の世界に憧れるも、家は職業軍人上がりの父親による暴力が吹き荒れ、さらに女性の生きる道など、どこかの家に嫁ぐ以外はありえない時代のこと(とはいえ階層的には恵まれているが)。そのなかで、阿字子は苦しみ、病み……。
と、いうことで、ひとつにはいかに才覚を持っていようが(あるいは持っているがゆえに)その先が見えない時代に生きる少女の悲劇が描かれているともいえる。また、一方で、執拗に暴力を振るう父親が、さらに継母によって虐げられてきたという家庭内暴力の連鎖と、それを断ち切ることができるのかというような、いかにも現代的な切り取りかたもできるだろう。
ただ、おれはといえば、そういうの込みで、すばらしい少女漫画を読んでいるような心持ちで読み終えた。どこがどうとはいえぬが、少女的なものに触れたという感じがする。ある意味で少女の残酷さ、冷たさ、切れ味、病んだ部分がある。どうしても主人公の阿字子寄りに見てしまうが、またクラスメートから見ればそうともとれるだろう。常識人の兄嫁から見ればそうも見えるだろうとも。
「ええ、ええ。そもそも阿字子には、理性だの、意志だのってものが、あるんでしょうか。私は自分の感情に、圧倒せられまいと思って、一生懸命なのよ。理性だ、理性だと思い込んでいたものが、よくよく考えてみると、矢ッ張り感情だったり、意志が働くのだと思っていると、矢ッ張り感情が首を上げていたりするんだもの。どうして、阿字子は、その区別がつかないで、ほんとに困っちゃうの。今にきっと、きちがいになるのね。」
そしてだんだんに心身ともに病んでいく。手の届かぬ花のようななにかを知り、知りながらも、そこへ行くという発想もなければ、現実的な道もない。ただ、若い女性は結婚せねばならぬという閉塞しかない。そして、家庭内暴力によって形成されたと思しき思考の歪み、心情の歪み、幸せを願っているのに不幸の根拠になってしまっているのではないかという苦しみ、これが折り重なって、にっちもさっちも行かなく、出口もなくなっていく息苦しさというあたりは読ませるものがある。というか、性別も時代も環境も違うが、強迫性障害者としては他人ごとでないようないきづまりもありまして。
一方で、最初に引用したあたりや、そこに出てくる調(しらべ)さんの美しさ、あるいは山梔子ならぬ百合を思わせる部分など、好き? 嫌い? 好きに決まってんだろ、みてえなところもありまして、と。ああ、それに海辺の情景、本を読んだまま迎えるトワイライト。
して、自伝的とはいえ著者はそのセンスと叡智を活かし、ホテル住まいの孤高の文学者になっていったわけで、その後どのような物語を紡いでいったのかはちょっと読んでみたいという気にはなっているのであります。おしまい。
>゜))彡>゜))彡
……まあ、この本で紹介されているのを読んだので知ったのですけれども。なるほど、映像化、あるいは漫画化とかしてみてもというような。
>゜))彡>゜))彡
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……一重のはあまり見ないし、バッチリきれいな状態に出会うことは珍しい。というわけで、手持ちの写真をお見せしたいが整理してないので出てこない。そんだけ。