咳が止まらないまま金曜夜遅く帰宅。しかし、なぜか少し元気になり録画していたアニメをたてつづけに見た上、『ビビッドレッド・オペレーション』をリアルタイムで見てしまう。そうか、あれはカラスのお姉ちゃんが三千世界に妹帝国を築こうとする話だったのか。いったいノニとクエがどう絡んでくるのかよくわからない……！
とか、ちょっと妙にハイになってる自分を感じる。おれは人に言われたことをすんなり信じこんでしまうタイプなので、「こないだ医者に言われた双極性の可能性とかいう話がマジだとすると、今が躁なのか！」などと、水木しげるの漫画ばりに鼻息が出たりするが、大事をとってマイスリーを飲んで寝る。ただ、咳止めを飲んでも咳は止まらない。スリープスプリント（睡眠時無呼吸症候群用のマウスピース）したままだと口の形が固定されたまま咳をすることになって負担が大きい。どうせ次の日は休日なのだから、装着しなくてもよかったか。
……というわけで、寝起きは最悪で、まず睡眠の質が悪かったことが身にしみてわかるし、頭は痛いし、目は充血してるし、という具合。で、ふと熱を測ってみたら37.8度とか、なんだよ、躁転とかじゃなくて熱のハイかよ！ みたいな。だけど、おれ、あの25000円のイージーオーダースーツ取りにいかなきゃならんのだ。だから俺は解熱剤飲んで出かけることにした。
そんで、売り場に行ってみたら例のおっさんがいたので「引き換えを」と引換券を取り出す。マスクしてるおれを認識してるのかどうかわからんもんだが、さも「あのときのお客さんですね、わかっております」みたいな表情と態度をするので、やっぱりなんか強まってる人だなとか思う。
試着したらそりゃすげえピッタリしてたね。……と言いたいところだが、正直、法事のために急に買った喪服（ダークスーツ）くらいしか比較対象がないのでようわからん。ただ、上は細身で体型維持はしなきゃね、と。というか、吊るしでも上下を別サイズ選べる店があればオーダーじゃなくてもいいかとか、左右の腕の長さ2cmくらい気にしないよとか思わんでもないけれども。
それで、ついでにシャツとネクタイでも勧めてくるもんだと思っていたし、なんかうんちくでも聞けりゃいいかという気もあったが、おれはやっぱり熱発していて「不整脈があるっていうんで総合病院行ったら、風邪もらってきちゃったみたいで。病院行って病気になってりゃ世話ないですよね」、「実はわたしも先週の頭から二日ほど寝込んでしまって……」、「インフルエンザですか？」……とかいう、見事な中年病気話だけして、「それでは寸法はこちらにありますので」、「また機会があれば」ということで売り場を後にした。まあ、悪いけどたぶん機会ないわ。というか、このスーツも、そもそも「免許証の写真を撮るとき用」なのだし。
あとはドラッグストアでマスクと風邪薬、本屋で本と漫画、コンビニで東スポ、スーパーで連休分引きこもるための食糧など買って帰った。
帰った空にみごとな飛行機雲、一本。
おりゃあ飛行機雲は好きなんよ。曲芸飛行する飛行機がわざと引くやつもいいし、ふと見上げた空に伸びてるやつでもいい。
大空とかいう人間の有しがたいものに、無力な人間がせめてもの引っかき傷をつけてるみたいでさ。たぶん、読点の前も後もそれぞれ突っ込みどころがあるんだけど、リリカルなのはおれの性分なんだよ。
そしておれはわりとしつこいので、病人が持つには重い荷物持ちながら（なんで鯖缶を2缶も買う？ スポーツドリンク2リットルなんて買う？）、ぼーっと空見上げて、なおかつ写真を撮ったりする。ところでおれは、ヒコーキグモという言葉とともにヴェイパートレイルなんて言葉も思い浮かべていたのだけれども、vapor trailとcontrailの違いってなんだろうね。あと、ヴェイパートレイルってもうちょっと活躍してたと思ったけど、戦績についちゃヒコーキグモと比べちゃずいぶん差があったね。いつの話だ。
そうだ、おれはわりとしつこんだよ。そしたらまた一機、雲をひくやつが。宮崎駿作品の名台詞はいろいろあるだろうけど、おれは『紅の豚』の「豚が雲をひいた！」ってのが好きでね。
だんだんかすれて消えていくところもいい。
そして、地球が丸いせいかなにか知らないが、彼方まで行く飛行機は落ちていくように見える。
おれは失墜も好きなんだ、まったく。
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……今は元データがどこにあるかもわからん自分の撮ったちっこい動画に見入ってしまった。
……こういうの見られるところは、観光地近くに住んでてよかったとは思うわ。
