すばらしく新しいヒルズ(山手駅)の改札を抜けると、そこはやばいネオヒルズだった。おれはミュシャ展を見に来ているのだった。
入り口に行列ができていた。おれをここまで引っ張ってきた女(おれが風邪で寝込んでいる間に会田誠の展覧会に一人で行った女)に、「こんなに混んでいた展覧会があったろうか?」と聞くと、静かに合掌してかえす。「東京国立博物館に興福寺の阿修羅像が来たときくらいじゃないか」という意味だと理解するのに、数分かかった。数分後に「どういう意味?」と聞いてわかったのだった。
さあ、アルフォンソ・ミュシャである。おまいらはミュシャが好きだろうか? ミュシャに萌えているか? おれはといえば……この展覧会に並ぶ老若男女(印象的に上下に幅のあるニョが多かったように感じたが)並には好きだ。萌えている。ただ、一言で一気にこの日記の少ない購読者を減らすようなことを書くならば、「もうちょっと少女趣味があればな……」というところである。絵師として、もう少し、少女を、と。
それはどうでもよろしい。というわけで、かつてデパートの催事かなにかに出かけたことはあったが、本格的なミュシャ展というのは初めてのように思う。とくに今回は「パリの夢 モラヴィアの祈り」とあって、パリのシャレオツなネオヒルズ族であるところのミュシャばかりでなく、その出自となる民族や国家についての作品(面倒なので各自調べよ)があるというのも気になった。が、誘われなければ来なかったとも言っておく。
で、作品なのだけれども、出展リストの紙をもらい忘れたか元からないのかわからないが、ともかくそいつがないので、記憶というあやふやなものから引っ張りだしていく。
最初は……肖像画、油彩の肖像画があったような気がする。まだブレイクする前、そういうので食っていたのだ、たしかそうだ。「肖像画だなぁ」と思った。
そして、ブレイクのきっかけになる例の女優のあのポスター。そしてこのポスター。ええ、それに例の煙草の広告に、モエ・エ・シャンドンに自転車屋(サイクルベースあさひ? ではなかったような気がする。女いわく「自転車のにしても、ネスレの幼児食のにしても、ニコパチ広告みたい」と辛辣だった。要はミュシャの受けのいい女の子に無理やり商品くっつけただけじゃん、ということらしい)、それから、四季おりおりに、芸術おりおりの擬人化、宝石の擬人化……と、「見たことあるやつばっかりだなあ」という感じ。
で、あんまり「実物見ると違う!」感なんかはなくて、「ビスケット(商品)の箱だけ貼っつけたみたいに不自然」とかそんなところに目が行ってしまったりも。新版画を見た時とはインパクト違うというか。とはいえ、やっぱりなんつーか、乗り乗ってる、時代の寵児、売れっ子ここにありって自信に満ち満ちてるって、そういうのは感じたかな。それまでこういうものがないところに、ドバーンと出てくりゃ、そりゃ一世風靡じゃねえかみたいな。あと、レイアウトとか横尾忠則を思わずにはおられなかった。
んで、面白かったのは下書きとかで、四季おりおりかなにかのやつのどれかなんかは、よっぽど初期案の方がいい顔してたりして、そこんところは趣味もあろうし、技術的ななにか、クライアントからのなにかとかもあろうが、まあそんなんね。しかし、この時代のパリでも印刷屋はカレンダー配ってたんだな!
それでもって、後半のモラヴィア、スラブ、チェコあたりの、こう羅列していてどれを指せばいいのかわからないが、そのあたりについてか。なんというのだろうか、もちろん主題が変わったんもあるだろうし、年齢もあるだろうし、いろいろあるだろうが、とくに印象に残らずといってはなんだけれども。気乗りしないで描いた藤田嗣治の『アッツ島玉砕』と『サイパン島同胞臣節を全うす』 みたいな迫力もなく……。いや、持って来られない実物の見たらまた印象変わるかもしらんが、とか。で、まったく知らないわけじゃないけれども、やはり複雑なあの時代のあのあたりで、フリーメイソンリーで高位にいたミュシャの思想、なにスラブ主義? みたいなところは不勉強でわかりませんというか。最期はナチスに侵攻されて連行されて釈放されてすぐに死んだということで、チェコの悲惨さの少しは知っているものの、と。
つーわけで、なんか他の展覧会よりすごい数のポストカード買ってる人の多い(おれも珍しく買ったけどな!)グッズ売り場をあとにして、コーヒー飲んで、正常位石井(打ち間違えたけど面白いからこのままにしておく)でペパーミント・ティーを買ったりして我がヒルズ(山手駅周辺)に帰ったのでした。おしまい。
>゜))彡>゜))彡>゜))彡
……たしかに混んでたけど、記憶に無い。おれが記憶にあるのは、いつだったかジョン・エヴァレット・ミレーの『オフィーリア』が来たときで、ともかく『オフィーリア』にすごい人が集まったあの混雑。なんかあれはすごかったんだよ。
- 作者: 湯浅慎一
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1990/01
- メディア: 新書
- この商品を含むブログを見る