横浜駅近くのアソビルにて開催されている『バンクシー展』に行った。
……え、あの『バンクシー展』? と思う向きもあるかもしれない。おれもこんなはてな匿名ダイアリーの記事を読んで、「行こうかどうか迷ってたけど、まあいいかな?」とか思ったりもしていた。
で、行こうかどうしようかと言ってた女も、「本人無許可らしいから、行かなくていいか」ってなってた。
……のだけれど、彼女の友人の娘さんが行ったら感動して帰ってきたという話を聞いて、「やっぱり行こうか」ということになった。
おれとバンクシー、バンクシーとおれ。はっきり言って、さほど興味はなかった。わりとセンスはあるんじゃないか、という謎の上から目線はあった。一方で、これだけさんざん大々的、世界的にやっていて(この展覧会のことではなく)、それでもいまだに匿名でいられるって、なんか胡散臭くねえかという思いもあった。シュレッダーのやつとか、なんか茶番に見えてしょうがねえ。
が、その胡散臭さが売りでもあるならば、本人無許可で世界中展覧会開いて回ってるこのイベントも胡散臭さも悪くない。そもそも反商業的というのであれば、世界のどこかにある街角のグラフィティなりなんなりに、飛行機に乗って見に行けというのはどうだろうか。そんなことできるのは一部の金持ちだけだ(もっとも今はコロナで金持ちも行けないかもしれない)。だったら、ちょっとそこの横浜まで出て、二千円払って見られるってのは、逆に理念にかなってんじゃねえか。贋作が混じってようが、本物もあんだろ。よくわかんねえけど。デストロイ・キャピタリズム、おれも列に並ぶか。
それになんというか、このあたりべつに学を修めたわけでもないのでわからんけれど、美術館のなかではなく、外に、公共の場に、多くの場合に違法に行われるグラフィティ・アートというものが、逆に展覧会に閉じ込められるというのもなにかおもしろい。皮肉があるかもしれない。まあ、もっとも、現代において公共の美術館に閉じ込められている歴史的な絵画たちが、本来そこに収まるべきものであったかどうかもわからない。本当はどこかの大金持ちか、審美眼のある収集家の家にでも置いといてくれ、という話かもしれない。あるいは、日の出町の駅の片隅にでも飾っといてくれ、という画家もいるかもしれない。
バンクシーがどう考えているか、おれにはいまいちよくわからん。著書や映画を見ればいくらかわかるかもしれないが、残念ながら今日はその持ち合わせなく出向いた。それでも、鑑賞者各自の携帯端末を用いる作品解説は細かった。長かった。全部聞くと三時間あるらいい。妙なところで真面目な展覧会だ。もっと胡散臭くてもいいぞ。
それで作品はどうなんだよ? というと、「実物はすごい!」というタイプの作風ではないよな。テレビやネット、モニタ越しに見たときの印象のままというか。まあ、そういう感じだ。いや、でも、わりとじっくり見ると、わりと丁寧というか、きっちりやってんなという感じがした。いや、何が実物かわからないけれど。
どちらかというと、センス勝負という感じだよな、という。メッセージ性とそれを表現するセンス。それはやはりある、と思う。しかし、おれの『ナイトホークス』をこんなにしやがって、ブリカス野郎め(褒め言葉)。
でも、うまいなって思うんだぜ。そして、匿名だけど、とてもイギリス的なんだよ。イギリスというかUKというか、なんというか。おれは音楽においてUSよりUK派であって、なんかその皮肉のうまさとか、「おうおう、こういう感じ、嫌いじゃないぜ」という気にはなった。
パンク、といっていいのかな。アナーキー・イン・ザ・UK。女王陛下をネタにした作品もあったしな。そういうパンク感もある。
しかしお前、ディズニー嫌いだろう、という作品もあっていい感じだ。おれもディズニーはあまり好きではない。
けど、スヌーピーは好きなんだよ。
……と、まあ、言いたいことは途中で全部言っちゃったかな。行こうか、行くまいか迷ってて、横浜に出てくるのがそんなに苦にならないなら、まあ行ってもいいんじゃねえのか。すごい芸術体験ができるとは言わないし、贋作や他人の作品も混じってるらしいが、まあそんなのも珍しい話だ。ともかく本物があるのも確かだし、そもそも本物の意味がなにかってところでもある。
バンクシー自体が巨大なフェイク、ワック野郎という可能性もあるし、そのあたりはおれにはわからん。わからんけど、メッセージ性についておれはあまり否定的ではないし、やっぱりなにかこう、センスがある。UKらしさがある。いや、バンクシーがフランス人かもしれないけれどさ。
まあ、「落書きは単なる犯罪! 許せない!」という真面目な人は行かないほうがいい。まあ、そもそも行かないだろうけど。バンクシーは著書『でこう述べているらしい。
「グラフィティは、もしあなたがほとんど何も持っていなくても、使いことのできるわずかな道具のひとつだ。そして世界の貧困を救うための絵が思いつかなくても、立ちションをしているやつを微笑ませることならできる」
そんなんで、立ちションしてて、ちょっとおもしろい落書きあったぜ、くらいの気持ちで行ってみてもいいんじゃないのか。そんなところ。
※ちなみに、時間別予約制だけどわりと「密」になっていたような気がするので(狭い中にわりと作品数多いし、音声解説が長い)、コロナを気にする人は避けたほうがいいかもしれない。