アニメ『おそ松さん』は一斉を風靡したといっていいだろう。ともかく、すごい人気が出た。おれも好きだった。
記憶に新しいせいかと言われればそうかもしれないが、面白えじゃん、おそ松さん。第一話だのアンパンマンのパロディなど場外戦もあるにはあるが、きちんとナンセンスでくだらないギャグアニメやってくれてんのがいいじゃないの。ある種の女性の趣味において人気、なんてえのはなんか意外な気がする(おれは男性声優のことは本当に興味が無いので、そのあたりの文脈? もわからないが)が、これはアリだ。ちなみに、二回り年上の女に「おそ松くんの続編でこういうのが今やっている」と勧めたところ「みんな無職でダラダラしていてよくない!」と立腹のようすであった。そのわりに録画して観ているようだ。たぶん、なんというか、くだらなく、しょうもないものを真面目に作っていて結果が出ている。悪くないのだ。
というわけで、おれが2015年に見たアニメで一番おもしろいということになっていた。六つ子にキャラをつけて、赤塚不二夫由来かどうかわからんが、アナーキーに好きなことやって、ともかくくだらなく、しょうもない感じがよかった。全員ニートで童貞というしょうもなさもよい。
で、一斉を風靡した……といっては少し説明が足りないだろう。あれだけ爆発的な人気を博したのは「ある種の女性の趣味において人気」、まあ腐女子人気といってしまっていいのか、そのあたりの盛り上がりがすごかった。「いや、おもしろい作品だけど、そこまでか?」とは思ったりもした。
して、二期が作られた。が、二期は一期ほどに盛り上がらなかった。一つに、第一話で主要ファン層に喧嘩を売ってしまったというのがあるかもしれないが、それとは関係ないおれにしても、あんまりどうも一期ほどの魅力を感じなかったように思う。
あまりに肥大化した1期を第1話で全否定してみせてはじまった第2期。あいかわらず下らなくてよろしい。つまらなくなった、という人がいるとしたら、その原因は「飽きちゃったから」じゃないかな、とは思う。そんなに変わったようには思えない。ただ、おれはこの作品を「下らないギャグアニメ」としてしか見ていないので、そうでない人にとっては重大ななにかがあるのかもしれない。あと、アニメ以外の展開というか勢いみたいなのはたしかに感じないな、というのはある。いずれにせよ、おれは好きだけどね。
「おれは好きだけどね」というのは、わりと突き放したものの言いようだ。結局2017年のベストにも名前はあがっていない。
そして、2019年に映画が公開された。『えいがのおそ松さん』、これである。おれにとっては三年ぶりということになる。あいかわらずの六つ子が同窓会なんかに行ってしまい、そして「だれかの後悔の夢」であるところの、高校卒業のころにタイムスリップしてしまう(タイムスリップというのかな? 『インセプション』に近いか)。そして、そこには現在とは違い、見ていて共感的羞恥心を覚えてしまうような18歳の六つ子がいる。はたして、だれの後悔がこの世界を作ったのか。抜け出すにはどうすればいいのか。どこかP.K.ディックのようでもあって、わりと嫌いじゃないSF感がある。そして、さらにはアニメ放送時にも考察する人がいたように、死を思わせる部分がある。そのあたりのスパイスはやっぱりうまいなと思った。しかし、中山競馬場で途中から「地方競馬やるぞ」はいいとして、次に写ったモニタが芝であるのはどうなのか。あ、盛岡? まあいいや。
して、ネタバレしてしまうと、あ、するよ、ギャグアニメだけどネタバレするからね、いいね、では、その、後悔というのは卒業式前日に六つ子あてに手紙が届いていたが、それを開けることなくなくしてしまったということである。そして、その差出人は六つ子のことをよく見ていた同級生の女の子だということがわかるのである。なんにもいいことなかった高校時代に、実はいいことがあったんじゃないのか。失われた過去を求めて躍起になる六つ子、そして巻き込まれる記憶の世界の六つ子たち。
で、その手紙の差出人は……地味な少女であった。べつに恋愛的な感情はなく、六つ子たちを見ているのが好きな少女であった。手紙にもそのことが綴られていた。あるいは、この後悔の記憶の世界は、彼女のものであったかもしれない。そして夢から覚める。少女は死ぬ。
これについて、いくつかネットで感想や考察を見たところ、少女は『おそ松さん』を愛した女性ファンたちのことではないか、という意見が多く見受けられた。まあ、おれは考察とか解釈とかが大いに苦手な人間であって、「あー、なるほどー」と思った。
とすると、なんというか、ブームの終わりの終わりに、一つファンへの置き手紙を残すような、そんな作品だったのか『えいがのおそ松さん』。そう考えると、なんかいい話のように思える。いや、実際、悪くない映画だったし、きれいにまとめちゃったな、という感じがする。いや、まあ、勝手に終わらせるな、まだ続きがあるかもしれないだろ、という話ではあるが。
うん、だから、アニメの『おそ松さん』見てたけど、映画は忘れてたわ、という人は、ちょっと見てみてもいいんじゃねえの。なんというか、あのブームはなんだったんだろう、とか思いながら。そしてまた、「18歳のころの自分は見たくねえな」とか、思いながら。