- 作者: 車谷長吉
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2001/02/01
- メディア: 文庫
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私はこの作品の映画版をDVDで借りて観たことがあります。
これを読み返したところで、なにかどう自分の胸に刺さったのかわかりやしません。胸に刺さったのかもわかりはしません。この程度の言葉しか残せない自分には、いつも失望させられます。結局、ここで私が小説『赤目四十八瀧心中未遂』の感想をいくら書き連ねようとも、ひどく軽薄で中身の無いものにしかならないでしょう。どこかから一節引用しようとも、どうにも虚しいものにしかならないような気がするのです。いっそのこと、全文を写経のように打ってみようかという気にもなりますが、まあ、そんなことはやらんのですけれども。
そんなわけで、私の手には余る、何事に対してもそうですが、これにはどうしたものかわかりはしない。ただただ、息を殺して頁を手繰るしかなかったというわけです。そして、いつもの口調で書いたら、本当に下手くそな文体模写のようになりかねないので、こんなふうに「ですます」しているわけなのですが。
ま、そんなことはどうでもよろしい。これだけ人間の心の底まで抉りながら、同時にそこにある「物」への描写が徹底している小説というものは、ほかに……なにかあるのか思いつきません。著者がべつのどこかで、折口信夫が「物」を「たましい」と読ませたとか、あるいはその逆で「魂」が「もの」だったとか書いていたように思いますが……憑き物、物がついている。物のはずみで人間どうかなってしまう。「私」という物がなんなのか、深く暗いところへと運ばれていくようでもあります。そして、世界は「私」の知らないところで確実に脈動してる。悪夢のリアルがある。そして、私も、きっとあなたもその世界のどこかでそれを見ながら気付かず、見ながら気付かぬふりをして生きているかもしれない。
少なくとも、私は私の成しうる限り、人間の業、私の業には敏感でありたいし、そう思う自分の薄っぺらい思いあがりを軽蔑したいと思います。そう、思うのですが。