厚い本から薄い本へ〜『生きづらさはどこから来るか 進化心理学で考える』を読む

 生きづらさはどこから来るか……、この本に書いてあることはだいたい知ってた。というのは驕りすぎかもしれないが、至近の読書からちょっとそう言いたくもなる。で、この本の内容というのは、あれだ、ジョン・H.カートライトの『進化心理学入門』にあった楽園追放仮説ベースの話かな、と。

 本書の終章曰く。

 ここまで進化心理学を学んできたみなさんは、もうおわかりでしょう。本書で何度も主張してきたように、私たちの心や身体は、ほとんど狩猟採集時代のままなのです。

 あるいは、また同じく終章にて曰く。

……自分の才能を育てる過程は、植物を育てる過程になぞらえることができます。土の中にあるさまざまな球根が、遺伝的に準備されている「才能の種」です。地面から出ている部分が環境です。水をやっていれば、その下の土に眠る球根から芽が出て、「才能が発揮」されるわけです。
 このように才能の発揮には、遺伝(球根)も環境(水やり)も重要なのです。

 こちらなどはゲアリー・マーカス『心を生み出す遺伝子』を思い起こさせる。

厚い本から薄い本へ

 というわけで、おれはこの本を読んですごく新しくなにかを学んだ! ということはあまりなかった。むろん、シラミ(コロモジラミ)の遺伝子から人類が服を着始めたのが約7万2000年前と推定される、とかいうエピソードは別だけれども。
 じゃあ、無駄な読書だったか? というと、なんというか知識の整理に役立ったといえる。整理といっても、じゃあソラで進化心理学による記事を書けと言われても無理だろう。ただ、読んでいてわかる、わかる、というのが多いというのは存外悪くないことだ。わかった気になる。わかった、とわかった気になるの差というのはなんだろうか、よくわからないのだけれど。
 そういう意味で、かつて以下で読んだ(前も触れたか)、「厚い本から薄い本へ」というアプローチは間違ってねえな、とあらためて思ったわけだ。

 わからんでもいいから、本は分厚いのからいけ。入門書は重要な部分だけをかいつまんでいるから薄いのだ。厚いのから行って薄い本に行けば、知識の体系化が楽になる。実際そうなのか、そのような気がする。睡眠導入剤を飲んで布団の中で一時間くらいで読んでそう感じた。こういうことか、と。まあ、おれが読んでいたのが分厚い本といえるのかどうかも怪しいが、本書よりは厚かった。これでまたスティーブン・ピンカーの本など読めば理解も深まる……かもしれない。

 とはいえ、まあなんだろうか、現代の人間の生きづらさがどこから来たかといえば遠いところからだし、究極要因が解き明かされたところで、この根腐れした一個体がどうなるわけでもない。話を伝える遺伝子の相続人ができる見込みもない。まあ、その点は遺伝について読んでいるともったいなくも思われるが、相手も居ないし、生まれたところで双極性障害を受け継ぐ可能性もあって非常に生きづらい個体だろう。おれまで引き継がれてきた遺伝子はここで終わる。まあこのムダな人生も人類史の長さを台無しにするものと思えば悪くはないか。

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進化心理学入門 (心理学エレメンタルズ)

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心を生みだす遺伝子 (岩波現代文庫)

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喪失と獲得―進化心理学から見た心と体

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http://d.hatena.ne.jp/goldhead/20131211/p2

5万年前―このとき人類の壮大な旅が始まった

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……コロモジラミの話はこの本に載っているらしい。