セリーヌ『またの日の夢物語』を読む

 そう、私はあらゆる所からこれを書いている! モンマルトルのわが家から! バルタヴィアの監獄から! かと思えばわれらがあばら家から! なにもかもごちゃ混ぜだ、所も時も! えいくそ! つまり夢幻劇(ゆめものがたり)なんだおわかりか……夢幻劇ってのはこれなんだ……未来も! 「過去」も! 「嘘」も! 「まこと」も! 疲れるよ!

 もはや意地になってセリーヌを読み続けているところもあるが、『またの日の夢物語』である。セリーヌ先生おっしゃるように、あらゆるところから現在も過去も書き連ねていらっしゃる。それも大半が愚痴といっていい。フランスの対独協力者として監獄に入ったり、亡命したりの愚痴だ。けど、第一次世界大戦じゃ勲章もらってんだ。その後も医者として貧しい人を治療したりしてんだ。だけど、笛を逆から吹いちまった。

 ……笛をあべこべに吹いちまったんだよおまえは!……ほんものの鼠は寄っちゃ来なかったのさ……ちゃんと吹いてりゃあ、ほんものの人間たちを魅きつけられたんだ、エリートをうっとりさせられたんだ、純な心の持主たちを……そういうのをみんな突撃させることができたんだ、戦車に、屠殺場に、焼夷弾の中に、臓物のあぶり焼きの押し潰し機ん中に、「人権宣言」と友愛とを! どんなに沢山の勲章だっておまえには足りないくらいだったんだ、ネクタイも、仕事も、パンも!……「鉄のカーテン」にだって穴が開けられたんだ、出たり入ったり自由にできたんだ!……ただそれ、お前はあべこべに吹いた!

 このあたりのねじれにねじれて、こじらせまくった感情というのは、まだよくわからねえ。わわからねえけど、読者にも純な心の持主たちにも喧嘩売ってんだ。その正義の野蛮さみたいなもんにさ。でも、おりゃあまだセリーヌがどんだけ反ユダヤのパンフレットに激烈なこと書いたか知らねえんだけどさ。
 まあ、それでこんなんよ。

徒刑囚、独房、手錠……なんでも心得とかなきゃだ!……病院、病気、これは知ってる……戦争も……くたばる前になんでも知っとかないと!……一点の後悔もなきように!……ああ人が死の間際まで胸昂らせて持ってゆくこの自尊心! ヴェルキンゲトリクス! ペタン! ヴォルテール! ブランキ! オスカー・ワイルド! ルコワン! ジョレス! トレーズ! M・ブラゲ! フランソワ一世! サッコ! 言わばまあ先輩たち! まだまだほかにも! それにラチュード! 牢屋に入れられたことのないやつはいい気な気取り屋……吹けば飛ぶようなただの小物だ……不平屋奴! とその小物が言う……わかっちゃいない……なにも知ろうとしないんだ道化どもは! しゃべる、あざむく、連中の手だ!……いつまでたっても世界が愚かなのはそのためだ……

 うはは、牢獄の先輩としてブランキきた! おれの大好きなブランキ。そしてサッコってのは、サッコとヴァンセッティのサッコだろうか! いやはや、やっぱりフランスで監獄っていやあブランキなのかね。牢屋に入ったことのないやつは使い物にならないって言ったのはだれだっけか。
 ほか、あんまり本筋関係ねえけど、「夢物語」が売れたらってとこでこんな表現。

それに自転車! 漕がなくても進むほど軽い、私が乗ってるって気配だけで走るやつ!……銘柄は《無重力》……

 いいよなあ自転車。この時代にフルカーボンなんてなかっただろうけど、いい自転車ってのはそんなの関係なく、こういうもんなんだろうな。ところでおれの……バルクホルン仕様にしたイタリアのフルカーボンはどうしてるって、部屋で横になって数ヶ月だけどな。
 まあ、そんなところで、これの続編、そして後期三部作へ進むか。そんなところ。
↓調子に乗って(?)歌うセリーヌ先生。

セリーヌの作品〈第5巻〉またの日の夢物語

セリーヌの作品〈第5巻〉またの日の夢物語

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