面白くないから読まなくてもいい!?富野由悠季『映像の原則』を読む

映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)

映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)

 『ガンダム Gのレコンギスタ』が面白すぎる。いや、面白すぎるというより、「これがおれの見知っているアニメだよなー」という印象が強い。要するに、30を過ぎてアニメを見はじめて数年、それよりも前の記憶が呼び起こされるような気になったのだ。単なる富野節の心酔者という可能性もあるが、なにかこう、アニメを見ていて「こういう感じだよな」と思うところがあったのだ。だが、「こういう感じ」がどういうところかわからない。ひょっとしたら、なにか富野アニメには秘密があるのではないか。
 というわけで『映像の原則』を読んでみた。はっきり言って「アニメを作る」人向けの本と言っていい。あるいは、動画作品を作る人向けの実践的な本。とはいえ、おれはその実践の場を知らないので、これが「原則」なのかどうかわからぬ。わからんし、正直言って実用的すぎて実感がわかないというか、「それ、おれの仕事じゃねえし」という印象が強い。まあ、「ビギナーからプロまでのコンテ主義」なのだから、ポケーっとアニメ見てるおっさんに向いて書かれた本じゃない。観る側としても、それなりにアニメの作画などに強い興味があり、知識のある人にはいいのではないだろうか。
 というわけで、おおよその部分をサーッと読み流してしまった。ただ、アホ面さげて映像作品(アニメ)をたくさん観ている人間にも、一つくらいは持ち帰れる知識がなきゃ面白くない。というか、何事にも、なにか一つくらいはお持ち帰りできる知識はあるんじゃないだろうか。

 当たり前の上下感覚でいえば、上に見えてるものは大きいし、"上位のもの"と感じることもできます。上からくる(見えてくる)ものは"強いもの"とも感じられます。
 下からのものは、その逆の印象づけをしてくれます。
 それと同じようなことで、右と左ではどちらが"上か下か?"という問題も、先に書いたように、右に見えるものが上位で、左に見えるものが下位となります。
 強いものは右から出てきますし、右から左に動いているように展開されたほうが正確につたわります。同時に、自然な流れ、当たり前の流れに見えますし、左から右に動くものよりも、短い時間感覚でとらえられます。

 前項までに記した映像における左右の一般的印象は、我々の心臓が左側にあることから決まっているのです。これがこのテキストでの最大重要要件です。
 舞台の上手(観客から見て右側)、下手(観客から見て左側)。
 これは経験的に決められたことなのですが、そうなった原因もわれわれの心臓が左にあるからで、左から来るものに対して心臓をかばおうとします。防御の姿勢をとります。

 ……って、まあどっかで目にしたような上手(かみて)、下手(しもて)の話も、あらためて本で読むと「ほう」となるわけで。して、心臓云々がどう立証されているのかわからないながらも、そう言われてしまうと心臓に意識が行き、左側が妙に落ち着かなくなったりもするという次第。とりあえず、この簡単(だけどたぶん奥深い問題)を一つこの本から持ち帰ることにしようと。

 CMは、短い時間に情報をつめこむことと、いかに長く感じさせるように見せるか腐心していますから、良くできているCMは、たいていカットごとに動きが左右逆になるように構成(編集)されています。

 そう意識してみると、飛ばしてしまってあまり見ないCMも、あらためて「そうなのかな」という視点でちょっとおもしろく感じられるから不思議なもの。「このCMの自動車はあっちから走ってきて、次にこっちからのショットで……」とか、「このビールのCMは登場人物がこっちを向いて、その次に……」とか。まあ、おれはCMのことも知らないので、ここに書いてあることの正否も知らんのだけれど。
 そのほか、「変化はただ単に変化するのでなく動機が含まれた変化」だとか、「劇(ドラマ=物語)=葛藤を描くこと」だとか、「ふつうにふつうを表現できなければ、観客に何も理解させることができないと覚悟してください」だとか、声優の声の話とかいろいろあったが、まあともかく右と左、これだけでも意識しよう。というか、意識しないで観てきたのはポケーっとしすぎなのかという気もするけれども、まあいい、おれは今後映像作品を観るとき、右と左を意識しよう。そして、その原則に倣っているのか、あえて逆らっているのか、トリッキーな仕掛けをしてくるのかとか、勝手に考えよう。考えるのは悪くない。悪くないんだ、たぶん。

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……ちなみに、おれがなにかを観るときのたったひとつと言っていい方位磁石は、今敏監督の「最初のシーンにすべてがある」(『パーフェクト・ブルー』のコメンタリで言っていたことの意訳)くらいである。ちなみに、本書でも富野御大は「映画は冒頭の五分で全部見せろ」と記してる。ポケーっと入っちゃいけねえんだ、たぶん。