- 作者: ひろさちや
- 出版社/メーカー: 四季社
- 発売日: 2006/02/01
- メディア: 単行本
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して、借りてきて序文を読めば、本書は破有法王著『現代相似禅評論』という本の英語版の翻訳という。つまりは逆輸入? 著者のひろさちやは鈴木大拙の英語で書かれた禅の本を日本語に訳す仕事をしたことがあり、かえって英語を経たほうが云々という。それでもって、本書は将棋でいうところの定跡の本だという。著者は昔将棋をやっていて、プロの八段を相手に飛車角落ちで対局して、飛車角落ちの定跡どおりに指していって、それをプロが確かめたあと「そろそろ紛れ手を指そうか」と言ってきて、定跡にない手を指されたという。その後必死になって、なんとか勝ってアマ初段を得たというが、この本はその定跡にあたるという。解答集だけど、定跡本。まあそういう考え方もあるか。でも、解答集といえば解答集なんだから、もうこれ(『現代相似禅評論』)は弟子が持っているのを師家が見つけて僧堂の庭で焼いたという話もわかりますわ、というところであって。
で、その『現代相似禅評論』ってインターネットで読めるんですわ。
国立国会図書館デジタルコレクション、どーん。インターネットを焼いてみよ、てな具合ですか。つーか、英語に訳された時点で落とされたのかどうか知らないが、公案と解答以外もおもしろそうじゃないですか(でも、読みにくいから読んでないです)。『解答集』はコマ番号46あたりから。いやはや。まあしかし、秋月龍みんが公案を出版して広めたのもスキャンダラスなことだとか思っていたのだけれど、こういうアンチョコがずっとむかしに出ていたとは知らなかったな。
で、有名な(おれでも知っているような)公案が並び、その解答が並ぶのである。そんなもの読んでも仕方ないといえば仕方ないが、かといって面白くないかといえばそうでもなく、なんとも複雑な感じはある。プロレスファンがミスター高橋本を読む感じに近いだろうか。あるいは、マジックの種明かし本を読んでしまうとか? なかには「この公案にはこう答えるしかないだろうな」と思っていたものがそうだったり、まるで想像もつかないものだったりと、いろいろはあった。あ、本書が禅問答の解答集というのは、なんというかおそらくある宗派のある部屋の中ではこのようなことがあったのだろうな、という程度には信じてもいいかなとは思う。もちろん、この本を丸暗記したところで、師家(お師匠さん)から合格をもらえるわけじゃねえだろう。自ずから、融通無碍に、禅機とかいうやつに満ち満ちて自由に出てくるところじゃなければ、一発で見抜かれるだろう。そういう意味で、定跡は定跡、勝負は勝負というところがあるのは言うまでもないだろう。ただ、現実問題として寺を継がにゃならん、試験に合格せにゃならんというところで、これがアンチョコとして、カンニングペーパーとして働いたという話があってもおかしくはないとも思えた。まあ参禅するわけでもないおれには関係ないことだが。
して、大量の公案に対して、大量の解答がある。その解答にはいくつかのパティーンがある。
・「無ー」とか「有ー」とか唸ったりする。
・立ち上がったり歩きまわったりする。
・質問にそっくりそのまま質問で返す。
・突拍子もないシチュにかかわらず、当たり前の答えをする。
・自己紹介とかする。
・ものの真似をする。
・僧の、あるいは市井の人々の日常を持ち出す。
・師家を平手打ちしたり、蹴りを入れたり、口を塞いだり、怒鳴りつけたりする。
……こんなところか。ものの真似というのはラジオ「あどりぶ」でへごちんとゆっこさんがやらされていたアレである。べつに「これの真似をせよ」と言われるわけじゃないところで、スッと笑いもせずにものの真似ができるというのはなかなかの境地だ。
しかし、それよりも師家への暴行の数々、これである。人間、なかなかこれを自然にできるもんじゃあないだろう。目上の人に向かってスパーンとやれますかね。人間、みなアントニオ猪木や蝶野正洋じゃあるまいし(蝶野が参禅してきたら「平手打ち」が出てきそうな公案は避けるね、おれが禅僧だったら)。けど、平手打ちもマウントポジションとった小川直也みたいに躊躇なく繰り出さなきゃいかんのだろうね。ためらいがあっちゃいけない。たぶんそうだ。一瞬ためらったら一喝されておしまいだ。たぶん、しらんが。
ともあれ、なんだ、おれはあるていど禅や公案に関する本を読んでいたからいいものの(悪いものかもしらんが)、そうでない人がこの本を読んだらどう思うだろうか。禅、公案ちゅうのは即興コントですか? とか感じてもおかしくはないだろう。そこんところがおもしろい、とも言えるが。おれなんぞはアルコールで小さくなった脳味噌を絞って、「これは色即是空を空即是色と間髪入れず打ち返すシチュエーションだから、このパティーンの解答になるのだろう」とか考えちゃっていかんね。「ああ、不ニだから」だとか、「不立文字だから」だとか。まあしかし、少なくともこの本の中ではやはりなんらかの理路があっての解答例なんだろうとは思うが。
というわけで、公案というものについてちょっと興味のある人におすすめ……できんのかな? よくわからない。すすめたくないような気もする。おれにしたって、読んでしまって逆になにか喉につっかえるようなものがあってしょうがない。問いだけ知っていて「いったいこんなのにどう答えればいいんだ!」と思っていたものに、「これこれこういう所作をすればいい」みたいに書かれていて、「ふーむ」と納得したような、残念なような気になったりして。でもまあ、おれ一人考えたところで仕方ないものに、あるヒントが与えられたとでも思うことにしようか。いずれにせよ、とくに先に進むつもりもないのだし、そもそも門の外から覗き見しているていどのこと。駒の動かし方を知ったところでなんだ、駒組みを覚えたところでなんだ、畢竟、歩が横に動いたり、将棋盤をひっくり返したりするところまで行かなきゃならんのだろう。その前に、そもそもおれは将棋を指す気があるのかどうか問うてみなくてはならんのだ。おしまい。
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このあたりの本からお読みになればよろしいかと。
- 作者: 秋月龍ミン
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/05/09
- メディア: 文庫
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- 作者: 秋月龍〓
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
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- 作者: 西村恵信
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- 発売日: 1994/06/16
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- 作者: 朝比奈宗源
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あと、ちょっと自分でも意味分かんないの出てきた。